<はじめに>
こんにちは。理学療法士の佐野です。6月29日に院内勉強会に参加しました。
今回のテーマは「頚部脊髄症・神経根症への対応」「頚椎症性筋萎縮症への対応」についてです。
<頚部脊髄症・神経根症とは>
椎間板を中心とする頚椎可動部における骨棘形成、関節の変形、靭帯の肥厚などの退行性変化が脊髄や神経根を圧迫する事で発生します。障害の違いで行くと、頚部脊髄症では障害された部位以降すべての髄節レベルで障害が出るのに対し、神経根症では障害された部位の髄節レベルのみで障害が起こります。当院では頚部脊髄症より神経根症の患者さんが多くみられます。
病態や症状については以下の通りです。
頚部脊髄症
・病態
静的圧迫因子は椎間板の膨隆、骨棘形成、黄色靭帯の肥厚等の頚椎症性変化と後縦靭帯骨化症(OPLL)に大別されます。これらの静的圧迫因子に加え、動的な脊髄圧迫が症状の進行に影響され、頚椎伸展時には黄色靭帯のたわみによる圧迫、頚椎過屈曲時にOPLLによる脊髄腹側の圧迫が増加されることが知られています。その為日常生活で前後屈運動が繰り返され脊髄圧迫による微小な脊髄の外傷に繋がり、症状を悪化させる可能性があります。
脊髄症の自然経過は一般的にゆっくりとした症状進行に階段状の悪化が加わることが多く、誘因因子として転倒などの軽微な外力であることが多いとされています。
・症状
発症初期の症状として手足のしびれが先行することが多く、さらに箸使用やボタンかけの困難など手指の巧緻運動障害、下肢 痙性による歩行のふらつき、夜間頻尿といった膀胱直腸障害等に続くことが多いです。下肢痙性による歩行障害は神経根症時はみられません。また脊柱管狭窄症でみられるような間欠性跛行と違い、最初から力が入らないのが歩行障害の特徴です。
神経学的高位の診断指標としては腱反射や筋力低下の変化を基準として判定します。(図1)感覚障害に関しては抹消側に拡大することが多く、特にC4/5椎間以上の病変では手袋型の感覚障害を示すことが報告されています。
図1 頚部脊髄症高位診断の指標
・治療
保存療法
消炎鎮痛剤、神経障害性疼痛治療薬、ビタミンB12製剤等の薬物療法。頸椎カラー固定、牽引療法、極端な前後屈を避ける生活指導が挙げられますが、治療効果に対する十分なエビデンスはなく症状が重度または進行性の場合適応はありません。また一旦外傷による症状の増悪がある場合、手術療法での効果が減弱するといわれています。
手術療法
歩行障害がある場合や症状が進行傾向にある場合は手術療法が選択されます。術式は椎弓形成をはじめ後方除圧、後方除圧固定術、前方除圧固定術、前後合併固定術に大別されます。患者さんの年齢やアライメントを考慮し術式を選択します。各術式の利点や欠点は以下の通りです。(表1)
表1 頚部脊髄症に対する術式の利点と欠点
神経根症
・病態と症状
神経根症は、椎間板変性の結果として発生した椎間板ヘルニアや肥厚した靭帯組織、鉤状椎体関節(Luschka関節)や椎間関節の骨棘が神経根を圧迫することにより発生します。症状は頚部痛、肩甲骨周囲の痛み、一側上肢に放散する痛みとしびれ、筋力低下が多いとされています。また上肢の痛みとしびれに先行して頚部や肩甲骨周囲の痛みを自覚する場合もあります。肩甲骨周囲の疼痛発生部位に関しては以下の通りです。(図2)
図2 神経根症による肩甲骨周囲の疼痛発生部位
・治療
脊髄症を伴わない神経根のみの障害で、筋力低下がない場合もしくは軽度の場合保存的治療が第一選択となります。具体的には頸椎カラーによる外固定、牽引療法、物理療法などが補助的に行われますが基本的にはNSAIDsや神経障害性疼痛治療薬を柱とした薬物療法が中心となります。保存的治療で改善がない場合や日常生活に支障をきたす筋力低下を伴う場合には前方除圧固定術や後方除圧といった手術療法が検討されます。
<頚椎症性筋萎縮症とは>
頚椎症性筋萎縮症(CSA)は頚椎症に伴う前根障害・灰白質障害により上肢の支配筋に筋力低下・筋委縮をきたすもので、近位型と遠位型の分類される。近位型では腱板断裂や筋萎縮性側索硬化症(ALS)、遠位型ではALSや末梢神経障害などとの鑑別が問題となります。近位型CSAでは上腕部、遠位型CSAでは前腕や手指に症状が現れます。
治療に関してはカラーによる保存的治療や手術療法がありますが、近位型・遠位型ともに罹病期間は手術成績を左右する重要な因子である為手術のタイミングが重要な課題となっています。一般的に回復不良とされている遠位型CSAにおいても発症6ヶ月以内に手術施行した例では比較的良好な改善が得られたという報告もあります。
<鑑別法について>
・近位型CSAと腱板断裂
近位型CSAでは上肢挙上困難を訴えることが多いです。近位型CSAでは上肢挙上困難に加えて上腕二頭筋の筋力低下が起こるが、腱板断裂の場合これが起こらないことが鑑別に重要であるとされています。しかし、上腕二頭筋の筋力低下があったとしても、橈骨筋等のトリックムーブメントにより肘屈曲筋力自体は見た目上保たれることもあるので、前腕回外位での徒手筋力testを行うことが重要とされています。
・近位型CSAとALS、遠位型CSAとALS
ALSの場合、広範囲に筋力低下・筋萎縮を呈するため進行した例であれば鑑別は容易だが初期では鑑別も困難なことも少なくないです。筋電図での診察上の筋力低下や視診上の筋萎縮がない範囲の筋にも神経原性変化が明らかであればALSを疑います。
ALSかの判断が難しい場合、専門である神経内科での受診も検討しておくと良いとされています。
・遠位型CSAと末梢神経神経障害
遠位型CSAの一亜型として、C8神経根症に起因する下垂指がある(図3)。下垂指は一般的には後骨間神経麻痺を中心とした末梢神経障害の症状と認識されていますが、C8神経根症でも起こりうるとされています。初期判断の段階で後骨間神経麻痺・橈骨神経麻痺と誤診断されることも非常に多くなっています。鑑別判断としては、短小指屈筋や小指外転筋、第1背側骨間筋等尺骨神経領域にも麻痺・筋委縮を伴うことから後骨間神経麻痺・橈骨神経麻痺との鑑別が可能となっています。
図3 C8 dorp finger
<最後に>
今回は頚部脊髄症・神経根症への対応、頚椎症性筋萎縮症への対応について学びました。どの病態も筋力低下または筋萎縮が起こることで、日常生活に影響を及ぼす疾患となっています。特に頚椎症性筋萎縮症に関しては医療機関にかかったとしても、誤診断されるケースも多く、最適な治療にたどり着くまで時間がかかるリスクもあります。罹患期間がのびていけば治療成績に影響が出る恐れもあります。症状が改善されない場合には専門の医療機関へ受診することも考えておきましょう。
早期発見・早期治療を心掛け健康な身体で生活を続けていけるようにしましょう。
当院では、このような勉強会を定期的に実施しております。
今後も患者様のために研鑽していきます。今後の投稿も楽しみにしていてください。