今回の院内勉強会では「膝蓋大腿関節障害の病態」について学んだため報告します。
●はじめに
膝蓋大腿関節障害はスポーツをされている若い方から加齢に伴う膝の痛みまで、非常に頻度が高い疾患になります。「階段を降りるときに膝の前側が痛む」「膝のお皿が外側にずれるような不安定感がある」といった症状の背景にある膝蓋大腿関節の動きや評価の方法を説明していきます。
●膝蓋大腿関節の解剖と重要な役割
膝関節は太ももの骨(大腿骨)とすねの骨(脛骨)からなる「大腿脛骨関節」だけでなく、一般に「お皿」と呼ばれる膝蓋骨と大腿骨の前面で構成される「膝蓋大腿(PF)関節」という重要な関節を持っています。
膝蓋骨のレバーアーム機能
膝蓋骨は人体最大の「種子骨」であり、大腿四頭筋の力を脛骨に伝える際、効率を高めるための「滑車」のような役割を果たしています。この構造により、膝蓋骨が存在することで膝を伸ばす力は約50%も増大します。つまり、膝蓋骨があることにより、少ない力で効率的に立ち上がったり走ったりすることができます。
軟部組織による精密な制動メカニクス
膝蓋骨が動く際、外側に脱臼したりずれたりするのを防ぐために、内側に強力な「支持機構」が張り巡らされています。特に臨床上、最も重要視されるのが以下の3つの靭帯です。
①MPFL(内側膝蓋大腿靭帯):外側への脱臼を防ぐ最大の要。外側偏位の力が加わった際、内側支持機構全体の約53%~60%の制動力をこの靭帯が単独で担っています。
②MPML(内側膝蓋内側側副靭帯):補助的な制動を担い、約13%~22%の力を分担しています。
③MPTL(内側膝蓋脛骨靭帯):下方及び内側への安定性に寄与します。
これらの内側の靭帯や内側広筋のバランスが崩れると、膝蓋骨は容易に外側へ引っ張られ、アライメントの破綻をきたしてしまいます。

●動きの中で変化する「接触面」と「接触圧」
PF関節の大きな特徴は、膝の屈曲角度に応じて、骨同士が接する面や受ける圧力がダイナミックに変化する点にあります。
接触面の移動
膝を完全に伸ばした状態では、膝蓋骨は大腿骨の滑車溝とは接触していません。膝が20°~30°曲がり始めると、膝蓋骨の下側が大腿骨の滑車の上部(近位)と接触し始めます。さらに膝を曲げるにつれて、接触面は膝蓋骨の上側へと移動し、大腿骨側も下部へと移動していきます。45°~90°で接触面積が最大となり、骨同士の適合性が最も高まります。
歩行時と階段昇降時の圧倒的な圧力差
PF関節にかかる負担(接触圧)は、動作によって異なります
| 動作内容 | OF関節にかかる負荷(体重比) | 特徴と臨床的リスク |
| 平地歩行時 | 体重の約50% | 比較的軽度であり、軟骨への急激な負担は少ない。 |
| 階段の昇り降り | 体重の約3.3倍 | 屈曲位での荷重のため、圧力が急増。初期の軟骨損傷で痛みが強く出やすい |
「平地で歩けるのに、階段、特に下り坂や降段で膝が痛む」という特有の症状は、このバイオメカニクス的数値(約3.3倍の圧力)が原因になっています。
●「ズレる」原因となる骨の形態異常とアライメント
PF関節障害の多くは、生まれ持った骨のカタチや、下肢全体の捻じれ(アライメント異常)が基盤にあります。
膝蓋骨・大腿骨滑車の形態(Wiberg分類と低形成)
膝蓋骨の裏側の形状は「Wiberg分類」によりTypeⅠ~Ⅲに分けられます。中央の隆起が内側により、外側の面が狭くなっている「TypeⅢ」は、膝蓋骨の安定性が低く脱臼のリスクが高まります。
また、大腿骨の受け皿(滑車溝)が浅い「大腿骨滑車低形成(扁平化)」があると、膝蓋骨が横に滑り落ちやすくなります。X線の軸位像(スカイラインビュー)で滑車面角(sulcus angle)が140°~150°以上ある場合は、滑車が平らであることを意味し、脱臼・亜脱臼のハイリスク群となります。
下肢全体のねじれと「TT-TG distance」
膝だけの問題でなく、下肢全体の立体的なアライメントも重要です。股関節のねじれ(大腿骨頭の前捻)や、すねの骨の外側へのねじれ(脛骨の外捻)が強いと、お皿を外側に引っ張る力が常に働きます。これをCT画像で正確に評価する指標が「TT-TG distance」(大腿骨滑車溝と脛骨粗面の距離)です。
・15㎜未満(正常):骨性のアライメントは良好。
・20㎜以上(異常):骨性の配列異常が強く、外側への牽引力が非常に強い状態。手術療法(脛骨粗面移行術など)を考慮する重要なボーダーライン。
●PF関節症に至る病態
PF関節による障害は大きく2つの病態に分けられます。1つは膝蓋骨不安定症を基盤とするPF関節不適合による骨軟骨損傷であり、もう1つはオーバーユースやPF圧が高いことによる骨軟骨傷害になります。
どちらの病態であっても、膝蓋骨のズレや高い圧力をそのまま放置して進行していくと、PF関節症に至ってしまいます。そのためにも、早期の正確な診断やリハビリテーションが重要になります。
●まとめ
膝蓋大腿関節障害は、ただ「膝の筋力を鍛えれば治る」という単純なものではなく、骨のカタチ、靭帯のゆるみ、下肢全体のねじれなどが複雑に絡み合って起こる病態になります。その病態を理解したうえで、リハビリテーションなどの適切な治療が必要になります。「膝のお皿の周りが痛む」「引っかかり感やはずれそうな不安感がある」という方は是非当院にご相談ください。
次回の投稿もお楽しみにしていてください!