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院内勉強会「三角線維軟骨複合体(TFCC)損傷の診断と治療」「母指CM関節症の診断と治療」

〈はじめに〉
こんにちは、理学療法士の森田です。
1110日に勉強会がありましたので、まとめていきます。
今回のテーマは「三角線維軟骨複合体(TFCC)損傷の診断と治療」「母指CM関節症の診断と治療」についてです。

「三角線維軟骨複合体(TFCC)損傷の診断と治療」
TFCC損傷は老若男女、活動性を問わず年齢幅の広い疾患であり、手関節尺側部痛や不安定感は日常生活の様々な動作に支障をきたすものです。

TFCCの機能と構造

<機能>
尺骨手根関節における衝撃緩衝作用と遠位橈尺関節を含めた手関節中央列から尺側の安定化機構を担っています。
<構造>

Properと呼ばれる中央の線維軟骨(三角線維軟骨(TFC))
掌背側の遠位橈尺靭帯
掌側の尺側手根靭帯
尺側手根伸筋腱の腱鞘床
尺背側の関節包
そして遠位へつながり全体としてハンモック様構造をした線維軟骨靭帯複合体とされています。

TFCC周辺部15~20%は掌側が尺骨動脈から分岐、背側が前骨間動脈背側枝により血行が供給され治癒能力を有するが、中央の実質部は無血管野で修復能力がないとされている。ただし、滑膜由来の幹細胞により再生される可能性があることも報告されています。神経支配は、掌側が尺骨神経に背側が後骨間神経により支配されています。分布は血行と同様で中央実質部は神経支配を有しないとされています。
<診断>
手関節尺側部痛の診断は多くの鑑別疾患を有するため非常に困難です。

TFCC損傷の典型的な診断プロセス
受傷機転:転倒による過伸展や急激な回旋ストレスなどの外傷
 注意点→慢性例では明確な外傷や発症機転の不明なものがある。
理学所見:TFCC周囲の圧痛や各種テストが陽性
 注意点→鑑別疾患でも陽性となるものも多い
画像所見:単純X線にてどこにも関節変化がなく、MRIでもTFCC自体に損傷像を認めるもの
 注意点→無症候性異常所見があり、複数の異常所見がみられることもある

<症状・理学所見>
●圧痛
圧痛部位は極めて重要である。Fovea sign(尺骨茎状突起、尺側手根屈筋腱、尺骨頭掌側縁、豆状骨に囲まれた部分:図1)、尺骨頭背側遠位や掌側遠位の圧痛はTFCC損傷を示唆される。

●疼痛誘発テスト
・Ulnocarpal stress test:図2
 肘をテーブルに回内外中間位で置き、片方で相手の手掌を把持し反対側で尺骨頭を掴む。手関節を尺屈させ軸圧を加えながら回内外させると同時に尺骨頭を掌背側へ移動させる。

・Ulnar head ballottement test:図3
 母指球部分を把持ししっかり固定する。尺骨頭をつまみ掌背側へ動かす際の動揺性を確認する。

●画像診断
単純X線ではTFCC損傷の診断は不可能であるが、鑑別診断には欠かせない。診断にはMRIが有用。

<治療>
●保存療法
一般的には3ヶ月程度の保存療法が優先させる。急性期であれば3週間程度のギプス固定も適応となる。硬性装具をつけて6ヶ月固定することもある。

●手術治療
手術はほぼ手関節鏡によって行われる。この際の治療原則はTFCCの血行、遠位橈尺関節の不安定性、そして突き上げなどの変性所見の有無により決定される。

<後療法>
掻 後は疼痛に応じて1週間程度の外固定ののち、可動域改善、筋力強化リハビリテーションを行う。本格的な社会復帰ならびに競技復帰には通常3〜4ヶ月を要する。尺骨骨切り後の骨癒合も通常3ヶ月程度必要である。

「母指CM関節症の診断と治療」
手の変形性関節症はとても頻度の高い関節疾患であり、日常診療でもよく遭遇する疾患である。疼痛や腫脹、関節可動域制限をきたし、手の機能障害に直結しやすい。なかでも母指が手の機能に果たす役割は大きい。

<疫学>
関節のhypermobilityを有するX線学的な母指CM関節症のリスクが3倍増えると報告されている。またCM関節症において第1中手骨の亜脱臼はリスクファクターであり、特に男性では変形性関節症のリスクが増大する。肥満や機械的な因子、職業上行う繰り返しの単純作業も母指CM関節症のリスクを増大させると報告されている。家族内集積も報告されており、遺伝的関与が示唆されている。

<理学所見>
●CM関節の圧痛(掌背側共に確認する)
●compression test
●torque test:
 母指長軸方向に圧や捻りを加える。CM関節症では疼痛が生じるが、de Quervain病では疼痛は生じないため、鑑別診断に有用。
●grind test:第1中手骨骨幹部を把持して近位方向に押しつけて回旋させる
●lever test:第1中手骨遠位骨幹部を把持して掌背側に動かす。

<画像診断>
X線学的重症度と臨床症状は一致しない事も多い。
病気分類として、Eaton-Glickel分類が使われ、治療法の決定の一助となっている。

<治療>
●保存療法
全ての症例にまず保存療法を行うのが一般的である。
●手術療法
靭帯再建術、関節固定術、関節形成術など様々な方法が報告されている。しかしながらその優劣は不明であり、各術式間の成績の差は評価できなかったとしている。

<さいごに>
今回「三角線維軟骨複合体(TFCC)損傷の診断と治療」「母指CM関節症の診断と治療」について学びました。他疾患との鑑別が困難であるため、慎重に細かな変化に気を配るとともに他疾患の可能性も加味しつつ治療検討を行なっていく重要性を改めて感じました。

当院では、このような勉強会を定期的に実施し、初心忘れず日々研鑽を行っておりますので、次回の投稿もお楽しみに!