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院内勉強会「難治性グロインペインの診断と治療・予防の歴史」「MRI所見からみた難治性グロインペインの病態」について

   <はじめに>

 こんにちは、理学療法士の小幡です。
10月20日に勉強会がありましたので、まとめていきます。
今回のテーマは「難治性グロインペインの診断と治療・予防の歴史」「MRI所見からみた難治性グロインペインの病態」についてです。


グロインペインとは
 グロインペイン(以下、GP)は、鼡径部痛のことでスポーツ選手など切り返し動作やキック動作を多用するサッカーやオーストラリアンラグビーでの発生例が多いです。難治性GPとなると競技復帰が長引くとされています。

・2000年頃までの歴史
 鼡径部周辺の痛みで明らかな診断がつかない場合、痛みの該当部位の筋腱付着部炎の診断がなされることが多かったみたいです。しかし、長期間の安静で改善しない例や両側に痛みを生じる例、下腹部や会陰部に痛みが放散する場合などは、単純な腱炎とは考え難いために、恥骨結合の炎症が周囲に痛みを起こすという考え方で恥骨結合炎と診断されることが多かったそうです。
Iliopsoas syndromeと診断し、腸腰筋への局所麻酔薬とステロイドの注射が有効であったと報告されたり、長内転筋腱切離術や閉鎖神経剥離術、潜在する鼡径ヘルニア(いわゆるスポーツヘルニア)が痛みの原因になっている場合は鼡径管後壁補強修復術などが行われてきました。

・2000年以降の進歩
 股関節のFAI(Femoroacetabular impingement)が難治性GPの診断・治療で欠かせない概念であると言われるようになったが、FAIが痛みと関連しない場合もあるので、手術適応かどうかの判断は重要になります。
また難治性GPの主な原因は内転筋関連であるとして、active traintraining program によるリハビリテーションが有用であると報告されました。
その他にも難治性GPには様々な原因があり、恥骨下肢疲労骨折、繰り返す閉鎖筋損傷、白血病、リンパ節炎など思いもよらない疾患もあります。

MRI研究による難治性GPの病態解明
 secondary cleft sign(薄筋腱・短内転筋恥骨付着部微細損傷)やsuperior cleft sign(腹直筋~長内転筋腱恥骨付着部損傷)、恥骨浮腫、恥骨結合上部円盤膨隆などの病変に着目して診断した結果90%の例で器質的病変を診断し、半数以上のGPは複数の器質的病変が認められているそうです。

   secondary cleft sign  


   superior cleft sign

Clift signは復帰が長引くことに有意に関連する独立因子(p=0.014)であることが示され、それまで明らかでなかった難治性GPの病態診断が大きく前進しました。
Cleft signはpubic plateの破綻(エンテーシスの障害)を反映していると考えられ、pubic plateの破綻まで器質的病変が伸展すると難治性になると考えられます。
異常の知見からpubic plateを介した筋腱付着部の恥骨微細損傷、恥骨結合の破綻、恥骨結合・骨盤・体幹の機能不全が互いに関与し合って慢性化するのが難治性GPの病態と考えられています。

 鼡径部痛の器質的病変の割合


 難治性グロインペインの病態


Cleft signを有する選手のプレー復帰までの期間(中央値)は24.7週間で、cleft signが認められなかった選手の11.9週間より有意に長かったそうです。
さらに重回帰分析の結果、MRI所見ではcleft signがプレー復帰の遅れに関連する唯一の独立した因子であったとのことです。

<さいごに>
 今回は難治性GPの診断と治療・予防について学びました。診断が難しかった疾患が研究により解明されることで、患者さんに何をしてあげることが見えてきます。実際に治療やリハビリに活かせるよう、日々研鑽を続けていきたいと思います。

 当院ではこのような勉強会を定期的に行っておりますので、次回の投稿もお楽しみに!