●はじめに
放射線技師の武田です。
12/4に行われた院内勉強会に参加しました。
今回は”化膿性脊椎炎”についてまとめたいと思います。
●化膿性脊椎炎とは?
細菌が血液によって脊椎に運ばれ感染、化膿する病気です。
高齢者・糖尿病・透析患者など、免疫力の低下している人(易感染宿主)に起こりやすい病気で、10%程度の死亡率を認める看過できない病気と言えます。
医療技術の進歩によって平均寿命が延びた結果、易感染宿主の割合も増加しているため、この病気の数も年々増加傾向にあります。
※易感染宿主とは?
免疫力の低下により、通常では感染することなく生体に症状が出ない微生物によっても、容易に感染を起こしうる状態の人のことをいいます。
●化膿性脊椎炎の症状
化膿性脊椎炎の症状として、首や背中、腰(頚椎・胸椎・腰椎)の痛みに発熱を伴います。
急性型は、感染した箇所の激痛や高熱などのはっきりとした症状があるため、痛みがある箇所のMRIを施行すれば比較的早期に診断することができます。
しかし最近では高齢者や易感染宿主が増えたことで、慢性型が多くなっています。
慢性型の場合には痛みは比較的軽く、発熱がないこともあるため、MRIまで施行されず診断・治療が遅れてしまう場合もあります。
数か月持続する首・背中・腰の痛みがあり、高齢者・糖尿病・透析患者など、免疫力が低下する要因があれば一度MRIの施行を考慮します。
〇急性型
首、背中、腰の激しい痛みに38℃以上の発熱を伴う。
〇慢性型
首、背中、腰の軽い痛みに微熱を伴う。発熱がない場合もある。
〇注意すべき症状
・手足のシビレ、排尿障害
脊椎の周りに膿がたまり、神経を圧迫することで発症する。
・首(頚椎)に化膿性脊椎炎を認めた場合
背中、腰(胸椎・腰椎)に化膿性脊椎炎を認めた場合と比べて、神経障害を併発する確率、死亡率が高い。
膿が広がり、気道を圧迫してしまう危険性がある。
●画像診断
※この章には専門的な内容が含まれますので、ご注意ください※
〇単純X線撮影(レントゲン)
・単純X線では初期の異常は確認することができない。
・発症後2~3週間で椎間板腔の狭小化を認める。
・炎症が続くと椎体破壊に繋がり、圧迫骨折としてレントゲンに写る場合もある。
→加齢による椎間板変性、骨粗鬆症による圧迫骨折との鑑別が重要である。
<X線所見による分類 Griffiths分類>
Ⅰ期(早期:early stage)
椎間板腔の狭小化、椎体終板の虫食い像、椎体縁の吸収・不整像
↓
Ⅱ期(破壊期:destructive stage)
椎体縁の吸収・不整像、周囲の骨委縮像、病巣の拡大、骨破壊、吸収像
↓
Ⅲ期(骨硬化期:osteosclerotic stage)
骨硬化像、骨棘形成、塊形成
〇MRI
・感染早期の診断で最も有用な検査である。
・しかし、超早期では診断困難な症例もあり、その場合は2~4週間の再検査が必要となる。
<UchidaらのMRI所見による分類>
※T2強調画像およびT1ガドリニウム造影検査の所見とする
stage Ⅰ
椎体終板のみの変化で、椎間板の信号変化を伴わないもの
↓
stage Ⅱ
1~2椎体に椎体浮腫や椎体内の液体の貯留所見を認め、椎間板腔の狭小化を伴うもの
↓
stage Ⅲ
椎間板に不整に増加した信号域で後縦靭帯を越えないもの
↓
stage Ⅳ
明らかな椎間板内貯留と椎体終板の破壊、椎体にびまん性に拡大した高信号域、硬膜外腔への波及を伴うもの
↓
stage Ⅴ
椎間板の消失と椎体圧漬、硬膜外腔の占拠病変、棘突起・その周辺(傍脊椎)にまで波及したもの
●化膿性脊椎炎の治療
化膿性脊椎炎の原因は細菌であるため、治療には細菌を死滅させる抗菌薬を使用します。細菌の種類によって治療に有効な抗菌薬も異なるため、
・採血を行い、血液内の細菌を調べる(血液培養)
・病巣部の組織を直接採取して調べる(生検)
など行い、先にどんな種類の細菌なのかを把握しておくのが重要です。
その後は脊椎に負担をかけないよう臥床・安静とし、場合によっては入院して様子をみます。
●実際の症例
70歳、男性、微熱と腰痛で近医受診し保存的治療され、化膿性脊椎炎が判明した症例となります。
腰痛、37℃台の微熱が持続、近くの総合病院を受診し仙腸関節炎の診断でステロイドを投与されていました。
血液検査では炎症があるという結果は出ませんでした。
図1 初診時 単純X線腰椎側面像
1~5個ある腰椎のうち、3.4番目の間が狭くなっている。
→L3/4椎間板腔の狭小化を認めた。
図2 初診時 MRIT1強調画像矢状断
腰椎3.4番目付近に黒いシミのようなものが広がっている。(矢印)
→L3/4椎間板腔、L3、L4椎体に低信号域を認めた。
図3 初診時 MRIT2強調画像矢状断
腰椎3.4番目の椎間板が白くなっており、お腹側へ広がっている。(矢印)
→L3/4椎間板腔に高信号域を認め、前縦靭帯に波及していた。
図4 初診時 MRIT2強調画像横断
椎間板の周囲、外側に白いモヤのようなものが広がっている。(矢印)
→L3/4椎間板内および椎間板周囲に炎症巣の波及を認めていた。
図5 X線ガイド下による経皮的生検
レントゲンを見て位置を確認しながら、炎症が広がっている腰椎3.4番目の椎間板へ針を刺し、排液を採取する。
排液に含まれる細菌を調べ、治療に使う抗菌薬を決めていく。
●さいごに
今回のテーマである“化膿性脊椎炎“という病気は、当院のような整形外科クリニックではあまり関わることがありません。今回の勉強会を通して化膿性脊椎炎というものを初めて知り、他の資料でも勉強し、自分の中で理解しながらなるべく分かり易いようまとめてみたつもりです。
(画像診断の章はどうしても専門的な内容でしたので、あえて専門用語などそのままで書いてみました。)
あまり関わることがないと言いましたが、「首が痛い」「背中が痛い」「腰が痛い」…と来院される患者様の中に紛れている可能性はゼロではありません。
化膿性脊椎炎の可能性を頭の片隅に置いて、一般的な頚椎症・胸椎症・腰椎症としっかり鑑別すること、もし疑いがあればMRI施行を考えることが重要だと思いました。
当院はこのような勉強会を定期的に行なっています。今後も患者様のために研鑽していきます。長文駄文をここまで読んでいただきありがとうございました。次回の投稿をお楽しみに!