理学療法士の山形です。
今回の院内勉強会では「アキレス腱症の診かた」を中心に学んだため報告します。
下の写真は院長のアキレス腱を超音波にて確認しているところです。
〇アキレス腱について
・アキレス腱は腓腹筋とヒラメ筋の腱性部により形成されている。
・踵骨(かかとの骨)の後上方隆起の2cm遠位に成人では前後径は5~6mm、2×2cmの広い範囲で付着している。
・アキレス腱付着部には腱の摩耗を防止する2つの滑液包がある。
腱の前方には後踵骨滑液包、後方にはアキレス腱滑液包がある。
・アキレス腱は細胞や血管に乏しい組織である。
・腱の付着部から2~6cm近位部分は筋腱移行部や踵骨付着部に比較して血流が少ないため、腱の変性が起こりやすく腱断裂の好発部位である。
・アキレス腱は表層には腱上膜があり、腱上膜はパラテノンに囲まれている。
・腱上膜とパラテノンの間には組織液の貯留する薄い層があり、腱の滑走時の摩擦を防ぐ構造になっている(下図、左は滑膜性腱鞘を有する腱 右はアキレス腱)。
慢性のアキレス腱障害には腱実質部の障害と腱付着部の障害がある。
〇腱実質部の障害について
・パラテノンに炎症を起こすアキレス腱周囲炎とアキレス腱内に障害の及ぶアキレス腱症がある。
・ともに腱実質部に腫脹と圧痛を認めることが多い。
・アキレス腱周囲炎は足関節を底背屈させても圧痛部位は変化しないがアキレス腱症は変化する。
・アキレス腱の障害は腱の炎症ではなく変性所見が中心である。
・画像所見はMRIが有用である。
・T2強調画像にてアキレス腱症では腱内に高信号変化が、アキレス腱周囲炎では腱周囲の滑液の貯留やパラテノンの高信号変化を認める。
・腱の変性が高度になると腱の力学強度も低下し腱断裂にいたる場合がある。
腱変性の要因には外的要因と内的要因がある。
外的要因は腱への過負荷が挙げられる。
腱は外傷や慢性の負荷により微小断裂が起こり、その修復過程において腱の良好な修復が阻害されると腱は変性する。
内的要因としては年齢、性別、体重のほか脂質異常症や腎臓透析、副甲状腺機能亢進症や関節リウマチなどがある。
またステロイドやニューキノロン系抗菌薬などの薬剤も危険因子と考えられる。
治療について
①保存療法
・安静、薬物療法:運動の一時中止、負荷の軽減、外用消炎剤の塗布、炎症が強い場合は消炎鎮痛剤の経口投与
・装具療法:足底挿板、アーチサポートの使用、外固定を行う。少なくとも2~3か月間行う。
・運動療法:Excentric loading exerciseが有用である。
・注射療法
・体外衝撃波療法
②手術療法
・経皮的腱切り
・足底筋腱切除とアキレス腱周囲組織切除
・変性部の切除と腱の修復または再建
〇腱付着部の障害
滑液包炎を原因とするもの、踵骨付着部での骨隆起や滑液包のインピンジメントによるものがある。
その他、踵骨の後外方の骨性隆起と軟部組織の肥厚はpump bump(ハグランド病踵、ハグランド病)ともいわれる。
滑液包炎
・典型例ではMRIにて拡大した滑液包に水腫を認める。
・後踵骨滑液包炎の診断にはtwo-finger squeeze testが有用である(下図)。
Pump bump
・アキレス腱自体に問題はなく、踵骨後外方の骨隆起や軟部の肥厚により靴の障害を起こす。
・MRIでアキレス腱内の信号変化や滑液包炎の有無を評価することが重要である。
付着部のアキレス腱症
・踵骨の後上方隆起がアキレス腱とインピンジして付着部の腱の変性を起こす病態である。
・骨棘の有無が症状に関連することは証明されていないが骨棘の大きさは症状と関連する。
治療について
①保存療法
・安静、薬物療法:局所安静やアイシング、経口・外用の非ステロイド性抗炎症薬を使用する。
・装具療法:足底挿板、アーチサポートを使用する。少なくとも3か月程度は行い痛みを確認する。
・運動療法:Excentric loading exerciseが有用である。少なくとも3か月は継続するように指導する。
・注射療法
・体外衝撃波治療
②手術療法
・直視下病巣切除と踵骨後上方隆起の骨切除
・小侵襲手術
・長母趾屈筋腱移行術
・Gastrocunemius recession