<はじめに>
こんにちは、理学療法士の福田です。3月26日に行われた院内勉強会に参加しました。今回のテーマは「変形性膝関節症に対する装具療法の作用機序」「変形性膝関節症に対する薬物療法の実際と有用性」についてです。
変形性膝関節症
変形性膝関節症(膝OA)は、加齢、肥満、遺伝的因子、力学的負荷など多くの原因が関与して発症する多因子疾患です。本邦では約800万人が膝OAによる疼痛を抱え、40歳以上で有病率が約55%に達するといわれ、さらに膝OAを有すると身体機能に関する健康関連QOLを有意低下させることが示唆されています。
膝OAに対する治療
主に手術療法と保存療法に大別されます。保存療法に抵抗する重症例には手術療法が選択され、保存療法は初期から進行期の症例に至るまで広く用いられています。
[保存療法]
保存療法には、薬物療法に加え、運動慮法や物理療法などの理学療法、装具療法があります。
[装具療法]
2019年に改訂されたOsteo-arthritis Research Society International(OARSI)のOA診療ガイドでは、装具療法の推奨度は高くないとされていますが、装具療法は副作用が少なく、種々の依存症を有することが多い膝OA症例に対して比較的安全に処方できる保存療法の一つとして考えられています。
~外側楔状型足底板 ~
外側楔状板(図1)の作用機序としては、踵骨を距骨下関節において外反させ、股関節から踵骨までの荷重軸を鉛直化することにより効果が生じ、大腿骨脛骨角(FTA)で計測される内反矯正は生じないと考えられています。また、前述の荷重軸垂直化によってlateral thrustが減少することや距骨下関節の外反モーメントの増加および足圧中心の外側偏位によって、短期および長期的にも外部膝関節内反モーメントが減少すると報告されています。しかし、外側楔状足底板処方後に膝痛の増強とともに大腿骨脛骨角の骨浮腫が生じた症例や、外側楔状板を使用した群と、平坦な足底板を使用した群と比較した結果、両群間に有意な差を認めなかったという報告もあります。したがって、症状の状態や、治療効果、問題を考慮したうえで処方をすることが重要です。
図1 左:インソール型 右:ストラップ型
~膝硬性装具(機能的膝装具)~
膝硬性装具(図2)は、主にアライメント異常の矯正や運動制御と膝関節の安定性向上による疼痛の軽減を目的としています。立位下肢アライメントの変化に関してはFTAの減少、膝関節内側裂隙角の外反方向への変化、下肢荷重線の外反偏位が報告されています。また、即時効果として、立脚期の膝内反角度は有意に減少し、外部膝関節内反モーメントの最大値も減少が認められているとの報告もあります。さらにLeeらの8年間の長期追跡調査では、膝硬性装具の平均装着期間は26か月であり、24か月以上装着した膝OA症例8年間で手術へ移行した症例はなく、6か月以上装着した対象は3か月未満の対象に比し、手術へ移行した症例数が1/2以下に減少したことを報告しています。ただ、問題点として重い重量や、装着方法の複雑さから装具着用の継続の低さが挙げられています。また、Deieらは、膝装具の長期の装着では、内的股関節外転モーメントが有意に減少したと報告しており、内的股関節外転モーメントの減少は股関節外転筋群の筋出力の低下を示唆し、膝硬性装具の長期的な着用は股関節外転筋の筋出力に影響を及ぼす可能性があることを留意しなければいけません。
図2:膝硬性装具
~膝軟性装具~
軟性装具(図3)は伸縮性素材でつくられ、硬性装具と比較して軽量で装着方法も容易であることから広く用いられています。サポーター着用はバランス能力や関節位置覚を改善させると報告されています。ただ、短期の疼痛軽減および機能改善では効果を有するものの、長期の痛軽減および機能改善、QOL改善に関しては有意の効果は認められていません。
図3:膝軟性装具
~膝OA用短下肢装具~
内側型OA症例に対する新しい装具療法として、膝OA用短下肢装具Ankle Foot Orthosis(AFO)が注目されています。(図4)膝OA用AFOは下腿外側に配置されたフレームとストラップおよび足底板で構成されており、前額面上で下腿軸が鉛直方向に矯正されることにより、その効果を期待されています。
図4:膝OA用短下肢装具
膝OAの痛みの病態
主座である関節軟骨の変化以外に、滑膜炎や半月板、そして軟骨下骨の変化などがより早期に出現していることが明らかになっています。そのなかでも、移動時における膝関節局所への力学的負荷の集中化と、その結果としての軟骨下骨病変や滑膜炎が膝関節痛と関連しています。変性した軟骨をはじめとした関節内構造物の摩耗片が、関節の内側に位置する滑膜に炎症を惹起させ、滑膜炎が発生します。
炎症性サイトカインの発現
滑膜などの組織が損傷を受けた場合、組織の修復を促すために炎症反応が起こり、その際に炎症性サイトカインが発現します。炎症性サイトカインとは、細菌やウイルスが体に入ってきたときに、炎症反応を促進させて撃退する働きがあります。
非ステロイド性消炎鎮痛剤(NSAIDs)
炎症性サイトカインを生成するために必要な酵素である、シクロオキシゲナーゼ(COX)の活性を阻害することで抗炎症・鎮痛作用を発揮します。したがって膝OAの急性炎症に対しても効果を発揮するものと考えられ、現存する薬物療法のなかでもNSAIDsは疼痛改善については多くのエビデンスが存在する推奨度の高い治療法となっています。
重症度と炎症性サイトカインの発現量の関連
膝OAにおける滑膜炎は初期から進行期、そして末期に至るまでいかなる重症度でも認められますが、炎症性サイトカインやCOXの発現量は初期よりも、むしろ進行期の方が低いと報告されています。したがってNSAIDsはいかなる重症度においても鎮痛効果を発揮するわけでない可能性があるといえます。
さいごに
今回は「変形性膝関節症に対する装具療法の作用機序とその有用性」「変形性膝関節症に対する薬物療法の実際と有用性」について学び、まとめました。変形性膝関節症は冒頭にもあるように、多くの方が罹患しており、当院にも様々な重症度の患者様が来院されています。保存療法は運動療法だけでなく、薬の服用や、サポーターなどの使用で痛みをコントロールすることができます。今回の勉強会によって、患者様にとってより適切な装具の選び方、薬の服用時期などを学ぶことができたので、しっかり生かしていけるように今後も研鑽していきます。
当院では、このような勉強会を定期的に実施しております。今後も投稿を楽しみにしていてください。