<はじめに>
こんにちは、理学療法士の福田です。
9月30日に行われた院内勉強会に参加しました。今回のテーマは「女性アスリートの身体的特徴とスポーツ外傷、内科疾患における性差」についてです。
女性アスリートの身体的特徴
近年、女性のスポーツ参加は進んでいます。女性アスリートというと、骨粗鬆症や月経に関する問題が注目されますが、整形外科的にも外傷・障害の頻度に男女差があることや、女性アスリートのもつ身体的特徴が男性アスリートと異なる点などを知っていく必要があります。
・スポーツ外傷・障害の男女差
20歳未満のサッカー選手におけるスポーツ外傷の男女差では、男性選手は筋腱損傷に対し、女性選手では関節・靱帯損傷が多かったと報告されています。また、大腿部(太もも)の肉離れに関しては、男性はハムストリング、女性は大腿四頭筋の肉離れが好発していると報告されてます。受傷することで手術を要し、長期の離脱を余儀なくされる膝前十字靱帯(ACL)は、男性よりも女性のほうが2倍の頻度で起こるとされています。
このようにスポーツ外傷・障害には明らかな男女差が存在しているため、同一競技の中でも外傷・障害が違う可能性があることを知っておく必要があります。
・関節の弛緩性
関節弛緩テストのスコアを表1に示します。女性サッカー選手は、すべての項目において関節弛緩性が優位に高い結果となっており、思春期以降、女性アスリートは関節弛緩性が高くなるのに対し、男性アスリートでは同様の変化は観察されないと報告されています。女性アスリートにおける思春期以降の関節弛緩性は、思春期に生じるホルモンあるいは解剖学的変化の性差に関連している可能性があるとされています。全身関節弛緩性が高いことはACL損傷や膝蓋骨脱臼および肩関節脱臼のリスクを増加させることが知られています。
表1 関節弛緩性の男女差
・身体の使い方
61名の男性サッカー選手、63名の女性サッカー選手の着地動作を比較したところ、女性選手の方が膝屈曲角度および膝外反角度が大きく、着地後最も深くしゃがんだ姿勢では、女性選手の方が膝関節および股関節の屈曲角度が小さい結果でした。(表2、図1、図2)言い換えると、女性の方が着地動作で身体がやや立った状態であるといえます。これは床からの衝撃を吸収できない姿勢であり、ACL損傷のリスクとされています。
表2 ジャンプ着地動作の男女差
図1 ジャンプ着地動作の男女差
図2 外反膝
・解剖学的特徴
女性は出産に備え、身長に対して相対的に骨盤幅が広いです。大腿四頭筋は骨盤に付着するため、大腿四頭筋と膝蓋腱を成す角であるQ角(Q角:骨盤と膝を結んだ角度)は女性の方が大きくなります。ジャンプの着地動作や、下半身で緩急を繰り返す動き、切り返す動作などで膝が内側に入りやすくなります。(図3)そのため、女性では膝関節での外反モーメントが大きくなり、これが外傷に影響されると考えられています。
図3 Q角の男女差
・女性アスリートのスポーツ外傷、障害の予防
スポーツ外傷、障害には選手の持つリスク要因が原因としているものがあり、その内的要因がトレーニングなどによって変化させることができるものもあれば、ある程度予防することも可能であり、女性選手の各競技の受傷リスクを分析することが必要になります。
女性アスリートに多くみられる内科疾患
男性アスリートと比較し多くみられる疾患として、貧血、摂食障害が挙げられます。一般に女性に多い内科疾患の中でも、貧血と摂食障害に関しては、アスリートにおいてさらに性差が大きくみられます。
・貧血
貧血の中でも鉄欠乏性貧血が最も多いといわれています。月経、消化管出血、血尿、発汗などにより体内の鉄が失われたり、鉄の体内への吸収機能が低下したり、摂取する鉄が不足したりすることから発症します。アスリートにおける鉄の喪失において、具体的には激しい運動によって血管内で溶血が起こり、排尿によって鉄が体外に排出されることや、多量にかく汗からの鉄の喪失などが原因となっていると考えられています。アスリート貧血を予防するためには、食事から鉄、たんぱく質などを十分に摂取することが基本となります。
・摂食障害
摂食障害は骨粗鬆症やエネルギー不足につながり、疲労骨折を起こしやすくなる重要な疾患です。一般に女性に多い疾患であり、特に思春期以降の女性に多いです。アスリートでもその有病率はあまり変わりませんが、スポーツを行わない一般女性と比較すると、2~3倍とリスクが高くなります。
摂食障害により利用エネルギーの不足状態が続くと、性腺刺激ホルモンの分泌が低下し、成長ホルモンやエストロゲンの分泌が抑制されます。その結果、無月経および骨粗鬆症をきたすと考えられています。摂食障害のリスクは実施している競技種目によっても違いがあるとされ、女性アスリートの中でも特に体操、新体操、フィギュアスケートなどの激しい体重制限や、極端に細い身体像を要する審美系の競技、陸上競技の長距離走などの持久系種目において摂食障害を起こしやすいです。
・摂食障害の診断と治療
アメリカ精神医学会の診断基準のDSM-5の日本語版では、摂食障害はタイプ別に「神経性やせ症」「神経性過食」「過食性障害」に大別されますが、摂食障害の診断と治療には専門的な知識が必要であり、摂食障害を専門にしている精神科医や心療内科医への受診が必要です。
<さいごに>
今回はアスリートの中でも、女性アスリートについて学び、まとめました。同じ競技でも性別により起こってしまう外傷の違い、抱える問題点が様々あることについて理解を深めることができました。実際にリハビリを行う際も上記のことを念頭に置き、より良いリハビリを提供できるよう研鑽していきます。
当院ではこのような勉強会を定期的に行っておりますので、次回の投稿もお楽しみに!