はじめに
こんにちは。理学療法士の後藤です。
11/22(金)に院内勉強会
「足底腱膜炎の保存療法:理学療法,装具療法&局所注射の効果と限界」を開催しました。
勉強会の様子はこちらになります。
今回も院長からのわかりやすい話をお聞きすることができました。
それでは勉強会の内容に入ります。
「足底腱膜炎の保存療法:理学療法,装具療法の効果と限界」
足底腱膜炎は、日常の診察において遭遇する頻度の高い疾患です。
足底腱膜炎の治療は、保存療法と手術療法に大別されるが、足底腱膜炎の大部分の例で保存療法により症状が改善するため、保存療法が治療の第1選択となります。
保存療法の中でも、理学療法や装具療法はその有効性を示す報告が多く、患者様への侵襲が少ないことから、足底腱膜炎に対する保存療法として行われることが多い。また、理学療法や装具療法は、組み合わせ行われることでより良好な治療効果を期待できます。
しかし、理学療法や装具療法を組み合わせて行っても、症状が改善しない治療抵抗例も存在し、このような場合、より侵襲の大きい保存療法や手術療法を考慮する必要があります。
足底腱膜炎に対する初期対応
来院時、疼痛が強く荷重が困難なことが多い。
疼痛の強い時期は患者様が理学療法や装具療法を実践できないこともあります。
まず、疼痛の鎮静化するために可能な範囲で局所の安静を指導し、消炎鎮痛剤の処方を行います。
そのうえで理学療法や装具療法を行っていきます。
理学療法
足底腱膜炎に対する理学療法として、アキレス腱および足底腱膜のストレッチングを推奨する報告が多く、その有効性が示されています。
Porterらは足底腱膜に対するアキレス腱の持続的ストレッチングおよび間欠的ストレッチングの有効性を報告し、両者の間で治療成績に差はなかったとしている。
DiGiovanniらは、足底腱膜炎に対してアキレス腱のストレッチングで治療した群と足底腱膜のストレッチングで治療した群の治療開始後8週での成績を比較し、両群とも良好な成績であったが、足底腱膜のストレッチングで治療した群のほうがより良好であったと報告している。
Engkananuwatらは足底腱膜炎に対し、アキレス腱のストレッチング単独で治療した群とアキレス腱と足底腱膜のストレッチングを併用し治療した群でその治療成績を比較し、アキレス腱と足底腱膜のストレッチングを併用し治療した群のほうが治療開始後4週の時点でより効果的であったと報告している。
ストレッチングの頻度や時間、回数に関して統一された見解はないが、足底腱膜炎の理学療法における過去の報告では、週に5日、1日に2セット行うプロトコールを使用しているものが多です。
装具療法
足底腱膜炎の装具療法において、その有効性を示す報告は散見されています。
患者様への侵襲が少ないことから足底腱膜炎の保存療法の1つとして行われることがあります。
足底腱膜炎の装具療法として、ヒールパッドやヒールカップ、アーチサポートなどのインソールや機能的装具が選択されます。
現在のところ、装具選択に関する明確な基準はないが、足底腱膜炎のに対する装具は、荷重時の足底腱膜にかかる負担を軽減させ、症状を緩和させる目的で使用されるため、患者様ごとに足底腱膜炎の発症要因を考慮し装具を選択する必要があります。
理学療法および装具療法の効果
Prefferらは足底腱膜炎に対してストレッチングのみで治療した群とストレッチングとインソールを併用し治療した群を比較し、ストレッチングとインソールを併用し治療した群でより治療成績が良好であったと報告しています。
Landorfらはストレッチングとヒールパッド使用し治療した群のほうが、ストレッチング単独で治療した群よりも良好な治療成績であったことを報告しています。
しかし、近年のシステマティックレビューによると、理学療法は、足底腱膜炎発症後2週から4か月は足部の疼痛や機能を改善させるが、それ以降は治療効果が期待できないことを報告しています。
装具療法においては発症2週から1年は治療効果が期待できるとしています。
数か月に及んで症状が残存する治療抵抗例に対しては、より侵襲の大きい保存療法や手術療法を考慮する必要があります。
「足底腱膜炎の保存療法:局所注射の効果と限界」
足底腱膜のような筋・腱付着部(enthesls)は、運動で発生する強い力学的エネルギーに常にさらされているため、損傷を受けやすい環境に置かれている。
このため、滑液包や脂肪体などのenthesls周囲の組織が一つの期間(enthesls organ)として機能し、entheslsを損傷から守っている(enthesls organ concept)。
Enthesls organは組織学的にみると関節の構造に類似しており、症状の発現には滑膜組織の関与が考えられる。
また微小外傷に対する修復を繰り返すことでentheslsは変性し難治性への移行する。
我々はこのことに着目し、変性疾患の治療として有効性が確立されているヒアルロン酸の局所注入を足底腱膜炎に対して施行している。
ステロイド注射は短期では効果的であるが、長期での優位性は見られず、筋・腱の萎縮などの弊害も報告されているためスポーツ選手には避ける方が望ましい。
ヒアルロン酸注射については不明な部分もあるが副作用もなく、有用であることが期待されている。
投与に際しては、超音波ガイド下に施行することがより安全に正確な投与ができる。
足底腱膜炎の病理
足底腱膜の踵骨付着部には、他の腱・靭帯付着部と同様に線維軟骨層を含む4層構造が観察される。
構造として特徴的なのは、線維の走行方向が付着部浅層と深層で異なっており、網目状構造となっていることが挙げられる。
また浅層での病理像は軟骨下骨板の破壊とそれに伴う血管の進入である。
深層での病理像は軟骨細胞の集積像と軟骨性細胞外基質の増加。多重tidemarkといった付着部線維軟骨の変性が主体であり、関節軟骨でみられる変形性関節症変化と類似するものである。
こういった組織学的所見からも、足底腱膜踵骨付着部には腱膜による圧迫力が加わっていることが推測され荷重関節ならぬ「荷重性付着部(Weightbearing enthesis)」といえるような特殊な組織像を呈している。
踵骨棘については、以前から足底腱膜付着部に発生した”traction spur”とされていたが、我々の組織学的検討により否定的であったことが分かった。
つまり踵骨棘は踵骨付着部深層の腱膜に接する形で形成されており、腱膜内に形成されるtraction spurというよりは、むしろ関節包や靭帯付着部辺縁に形成されるmarginal osteophyteの形態と同じである。
足底腱膜付着部深層には繰り返される荷重により”enthesis OA”が起こっているといっても過言ではない。
足底筋膜炎に対するヒアルロン酸注入
筋・腱付着部損傷の症状の発現には同部のOA様変化が関与していることより、症状の改善にはこの部分の滑膜組織への働きかけが必要になる。
このことに着目し、enthesisへのヒアルロン酸注入療法を行っている。
一般的にヒアルロン酸には抗炎症作用、関節軟骨修復作用などが報告されており、変形性膝関節症や肩関節周囲炎などに投与され、その効果とともに生体への安全性が確立されている。
足底筋膜炎に対するヒアルロン酸の投与成績
165例の足底筋膜炎患者を3群に分け、それぞれに2.5mlの高分子ヒアルロン酸、0.8mlの高分子ヒアルロン酸、placeboを投与しdoubleblind studyを行った結果。
2.5mlのヒアルロン酸の足底筋膜付着部への投与は症状改善に有効であり、足底筋膜炎の保存療法の1つの選択肢となり得るのではないかと考えられた。placeboの投与でも症状の改善を認めるが、これは侵襲性の操作によるplacebo効果と癒着の除去や付着部周囲の洗浄効果によるものと考える。
おわりに
注入部位を的確に施行すれば短期的には良好な結果が得られているが、長期的効果や作用メカニズムについては未だに不明な点が多い。