理学療法士の近藤です。
5/17、院内勉強会にて「筋性腰痛」について
学んだため報告します。
●はじめに
体幹筋群由来の腰痛には様々な病態があり、脊柱起立筋などへの慢性的な負荷による筋筋膜性腰痛、脊柱起立筋などへの繰り返される牽引力による筋付着部障害、急激な筋収縮による体幹筋の筋損傷(いわゆる肉離れ)が挙げられます。
しかし、筋由来の腰痛については、基礎的研究が乏しく、そのメカニズムは明らかにされておりません。そこで、それらの発生メカニズムと対処方法について述べていきます。
●筋筋膜性腰痛
筋は、実際に収縮する筋実質部とその周囲を区画し、筋収縮力を腱に伝え、各々の筋同士や周囲の組織との滑走性を保って独立した運動が行えるようにするための結合組織で包まれています。
結合組織には、豊富に神経が分布しており、侵害受容器やルフィニ小体やパチニ小体などの痛覚や触・圧覚などを伝える固有受容器が存在しています。結合組織に何らかの原因で炎症が生じるとそれらの受容器の数が増加し、疼痛感受性が高まり、さらに線維化が生じて筋膜間の滑走性が低下するとされています。
筋膜は、筋周囲を覆う筋周囲筋膜(muscle-related layer)と皮下に膜状に薄く広く分布するsuperficial fascia(皮下結合組織)、より厚く全身に連結し筋組織の張力を伝達するdeep fasciaに分けられます。
筋に局所的な損傷による炎症・不活動が生じると、筋萎縮、結合組織周囲の線維化による運動機能の低下を招きます。このような線維化した結合組織に圧痛や硬結が発生し、腰痛や肩こりの原因となると考えられています。この硬結はmyofascial trigger point(MTP)といい、このような病態による症候をmyofacial pain syndromeいいます。
腰部には、腹壁を取り囲むように腰背筋膜(TLF:thoracolumbar fascia)が存在し、腰椎横突起や棘突起に付着し、筋膜内の腹横筋の収縮によって緊張が増し、腰椎の安定性に貢献します。(図1)TLFは、神経も豊富なため腰痛の発生現になると考えられています。
●筋付着部障害
脊柱起立筋などの体幹浅層にあり、複数の関節をまたぐ多関節筋が姿勢を保つために、遠心性収縮を繰り返すことで筋付着部に牽引力が作用し、その負荷により筋と骨の結合部に付着部障害が生じます。
アスリートや脊柱後弯変形を呈した高齢者に多いとされています。
●体幹筋肉離れ障害
筋・筋膜に強い伸張力が作用すると筋と筋膜の境界で損傷が生じ、筋損傷(肉離れ)が発生します。
スポーツ障害として発生しやすく、ハムストリングスや内外腹斜筋で生じやすいとされています。
●筋性腰痛の発生メカニズムと対処方法
過大な負荷が加わりながらの遠心性収縮を行うと筋膜・腱・筋付着部に大きな伸張力が作用し、損傷が生じます。
動作的には、切り返し動作やジャンプの着地などの急減速の際に姿勢を保持する時に同様の伸張力が生じ、損傷されます。
関節を支えるためには、体幹の深層にある、持久性が高い遅筋線維の豊富な単関節筋が働くことが合理的です。しかし、多関節筋が優位に活動すると、繰り返しの負荷による筋痛や、短時間で強い力が働くことで体幹浅層筋に筋損傷を生じます。そのため体幹深層筋の活動は、非常に重要であると言えます。
☆代表的な体幹深層筋
腹横筋、多裂筋
これらの体幹深層筋の活動は、脊柱・骨盤の安定性を高め四肢の運動をより効果的にします。
腰痛の対処方法としては、体幹深層筋群の活動を促進させ、脊柱起立筋等の多関節筋の筋活動を抑制することが有効であると考えられています。他にも脊柱起立筋の筋持久力を高めるための有酸素運動、脊柱起立筋による骨盤前傾を抑制し、股関節伸展可動域を拡大するために腸腰筋、大腿直筋のストレッチも有効であると考えられています。