手関節尺側部痛の鑑別
手関節尺側部病変に焦点をあて院内勉強会を開催したため報告します。
l 尺側手根伸筋(ECU)腱鞘炎
l 三角骨線維軟骨複合体(TFCC)
Ø 小窩付着部損傷
Ø 実質部損傷
l 尺骨突き上げ症候群
この3疾患が多くみられます。
<尺側手根伸筋(ECU)腱鞘炎>
発症:前腕の回内外反復するoveruseが関連することが多い。
多い職業、スポーツ:事務職、美容師、トリマー、ゴルフ、テニス、剣道、乗馬など
「診断理学所見」
誘発テスト
Carpal supination test:肘90度屈曲、前腕回外位で患者の手指を把持し過回外させた
ときに激痛が生じれば陽性
実験的に
合掌回外テスト
Synergy test
[治療]
局部麻酔剤、ステロイド剤注射が有効である。
<三角骨線維軟骨複合体(TFCC)>
TFCCは尺側手根骨の支持する遠位コンパートメントでハンモック構造部、遠位橈尺靭帯、尺骨手根靭帯、尺骨手根伸筋腱鞘、尺側関節包ならびに中央の実質部で構成されている。TFCC周辺部15~20%は血行が供給されており治癒能力を有しているが、中央の実質部には修復能力はないとされている。また神経支配も血行同様である。
l 小窩付着部損傷
病態:遠位橈尺関節(DRUJ)を制動する最も重要な靭帯である橈尺靭帯の小窩部
での損傷である。中~高度の不安定性、回内外での著明な尺側部痛を生じる。
多い受傷:転倒による背屈強制。
「診断理学所見」
Fovea sign:肘90度屈曲、前腕回内外中間位で尺骨茎状突起の掌側基部の圧痛をみる。
DRUJ不安定test:橈骨S状切痕の掌背側を挟むように把持し可動性を調べる。
l 実質部損傷
病態:尺骨手根関節の荷重部であるTFCC関節円板が尺骨頭と月状骨、三角骨に挟まれて
損傷。損傷部位、形状、受傷原因により分類される。
尺屈で痛みを誘発するが、DRUJの不安定性は生じない。
「診断理学所見」
Ulnocarpal stress test:手関節尺屈位で他動的に軸圧をかけながら回内外すると
有痛性クリックが生じる。
Shake hand test:肘軽度屈曲、前腕回内外中間位で握手するように手を握り、
患者に手をグリップするように指示した状態で他動的に尺屈強制
させ激痛が生じたら陽性。
[治療]
3ヶ月程度の保存治療が優先されます。急性期であれば3週間程度のギプス固定も行なわれる。不安定性がみられる場合はサポーターが用いられる。これらの効果次第で手術的治療も考慮される。
<尺骨突き上げ症候群>
尺骨の橈骨に対する相対長が一次性または二次性に2mm以上長い為に尺骨頭が月状骨や三角骨などの尺側手根骨に突き上げられることで生じる疾患群です。
・TFCC変性損傷
・月状骨、三角骨、尺骨頭関節軟骨障害
・月状骨三角骨間靭帯変性断裂
などが含まれる。
[症状]
・手関節尺側部痛、特に運動時痛と尺屈時痛
・ドアノブや蛇口をひねった時の誘発痛、回内外可動域制限(特に回外)
・遠位橈尺関節不安定感
※5mm以上尺骨が長いと背側に偏位し亜脱臼する。
[治療]
・保存療法
装具やサポーターなどで手関節を固定し局所の安静を図る。
3ヶ月以内に症状の改善が得られることが多い。
・手術療法
尺骨短縮術を行なうことが多いが、骨癒合の点に問題があり、
DRUJの安定性が良好な鏡視下手術の適応もある。