こんにちは、理学療法士の小幡です。9月27日から再開された院内勉強会に参加しました。今回のテーマは「精神科からみた慢性腰痛―
ADHDと痛みの関連性―」についてです。
<はじめに>
慢性腰痛には、うつ病や不安障害、物質使用障害、パーソナリティ障害などの精神疾患が高頻度で併存することが知られてきました。
そして近年、それらの併存精神疾患や腰痛には発達障害のADHDが関連していることが注目されているので、まとめて行きたいと思います。
慢性腰痛とADHD
1.慢性腰痛の精神科へ依存症の報告
慢性腰痛患者のおよそ35%~65%に精神疾患ほ併存が認められ、その内訳はうつ病(気分障害)が18~56%、不安障害が11~27%、物質使用障害が5~14%、パーソナリティ障害(PD)が70%と報告されています。
※物質使用障害・・・自身や他者に重大な害や悪影響があるにもかかわらず、薬物を継続的に使用すること
そしてその発症時期に関しては、痛みの発症前に物質使用障害が先行して認められる場合が多く、うつ病は腰痛発症後の2年以内に発症し繰り返す傾向があるとも報告されています。
さらに、既往歴の精神疾患の診断名の数は、その後の腰・頚部痛の発症と有意な関連性があり、特に21歳以前の精神疾患の既往は、後の腰・頚部痛の発症を強く予測すると報告されています。
PDについては、腰痛患者は一般人口よりも13.2倍PDを併存しやすく、妄想性PD(A群)、反社会性PD・境界性PD・演技性PD・自己愛性PD(上記4つはB群)、回避性PD・強迫性PD・依存性PD(上記3つはⅭ群)が多く認められました。しかしながら、統合失調症を代表とする精神病圏の疾患の併存が多いとする報告は認められていないみたいです。
これらの報告から見えてくる慢性腰痛患者の精神医学的な特徴は、かなりの高頻度でうつ病や不安障害などの精神疾患が認められ、オピオイドなどの特効薬的治療に飛びつきやすい衝動性の高さや、B群PDの特徴(自傷行為や演技的言動で、周囲を巻き込み注目を得ようとする)や、C群PDの特徴(真面目で几帳面、完璧主義、サービス精神が旺盛でNOと言えない)を痛みの発症前から有しているということであります。
2.慢性腰痛ADHDに関する報告
慢性腰痛とADHDの関連性については、ペインセンターの精神科医に紹介された連続する難治性慢性腰痛患者60名のうち、46名(76.7%)に臨床水準のADHD症状が認められ、その痛みの強さと持続期間は他動・衝動性と有意に相関していました。
そして、ADHD治療薬が、ADHD併存の難治性慢性腰痛患者の痛みを軽減ないしは改善されたの報告もあります。ADHD治療薬は痛みの認知・制御にも深く関与するノルアドレナリンやドパミンの神経伝達を改善するため、痛みも改善させ得ると考えられています。

ADHDと中枢感作のメカニズム
1.中枢性感作と痛覚変調性疼痛
中枢感作とは、末梢からの感覚入力が伝導路の中枢神経系において刺激が増大され、本来よりも増幅されて伝導されることを言います。また刺激に対する反応性の増大だけでなく、本来備わっている中枢からの下降性疼痛抑制系の機能低下を引き起こし、痛覚過敏やアロディニアの誘発、うつ症状や睡眠障害などと関連します。
中枢感作は痛覚過敏と関連するだけでなく、光、音、香り、ストレスなどの様々な刺激に対する過敏症にも関連しています。
近年、中枢感作が病態に関与している包括的な疾患概念として中枢感作症候群が提唱されており、慢性腰痛のほかに、線維筋痛症、過敏性腸症候群、片頭痛および緊張性頭痛、顔面痛、顎関節障害、慢性骨盤痛障害が含まれています。
2016年のこ国際疼痛学会では、この中枢によって生じる痛みを痛覚変調性疼痛と定義し、侵害受容性疼痛、神経障害性疼痛に並ぶ第三の痛みとして位置付けています。
2.基礎研究からのADHDと中枢性感作に関する知見
近年、慢性腰痛以外の中枢性感作症候群もADHDと関連することが報告されています。ADHDが痛みに過敏となるメカニズム(中枢性感作)には前帯状皮質―島皮質に過活動があり、その結果として脊髄後角に神経伝達様式の変化が生じ、
併存するペインマトリックス(一次・二次体性感覚皮質、前帯状皮質・島皮質)やデフォルトモードネットワーク(後部帯状皮質や楔前部)の自発的活動の高まりの結果、それらに代わって駆動されるはずの中央実行系ネットワーク(背外側前頭前皮質や後登頂皮質)が駆動されず、本来なら中央実行系により駆動される下行性抑制系が有効に機能できないために中枢性感作を生じることが考えられています。
ADHD治療薬による慢性腰痛と脳機能の改善
ある症例で、ADHD治療薬を投与して痛みの変化を記録したものになります。ADHD治療薬のアトモキセチン(ATX)を投与してから痛みがさらに減るといった変化がみられました。

また脳血流SPECTでも、ATXの治療経過に沿って、DMN(Default Mode Network)の楔前部の血流量が低下し、一方でCEN(Central Executive Network)の活動が上昇したため腰痛が改善したことが推察されます。

さいごに
今回は「慢性腰痛とADHDとの関連性」について理解を深めました。
ADHDは慢性腰痛の一因ともされる中枢性感作が生じやすく、それはペインマトリックスとDMNの自発的活動性が高いことにも起因し、ADHD治療薬によって改善し得ることが分かりました。
姿勢や活動内容だけでなく、脳の活動も痛みに関連していることもあると今回の勉強会で学ぶことができました。
色々な知識を持ち、臨床に取り組んでいきたいと思います。