院内勉強会に参加したので、ご報告します。
今回は、「膝周囲の腱付着部炎の診かた」
「前十字靭帯損傷の診断と治療」です。
膝関節周囲の腱には損傷される頻度の高いものとして、下記があります。
・大腿四頭筋腱
・膝蓋腱
・鵞足
・腸脛靭帯など
腱の障害は、繰り返しの負荷が増大することによる微小断裂が要因とさせるオーバーユース症候群です。
腱損傷後、通常では炎症期、増生期、再構築期という治癒過程を進みます。
しかし、負荷がかかり続けることで治癒が進まず、異常な新生血管や侵入神経がみられ、健の変性や疼痛が起こるとされています。
断裂後、生理的なストレスがない腱では腱細胞の形が変わり、軟骨や脂肪を産生し変性していくことが知られており、蛋白質破壊酵素産生による組織破壊により、腱組織の変性が進行していくという報告もあります。
○ジャンパー膝
バスケットボールやバレーボールなどジャンプや着地動作を繰り返すスポーツに多く見られる膝屈伸機構のオーバーユース障害です。
腱の微小な損傷により生じ、特に膝蓋腱近位部にストレスが集中することがわかっています。
膝蓋骨遠位部と腱が挟み込まれることで生じると考えられています。
症状は、圧痛や運動時痛の増加があり、大腿四頭筋の柔軟性および筋力低下を合併しやすいです。
画像所見では、腱の肥厚、腱内や付着部の信号変化などで重症度が評価できます。
○Osgood-Schlatter病
成長期のスポーツ障害として高頻度にみられます。大腿四頭筋による膝蓋腱からの牽引力が、未成熟な脛骨粗面に繰り返しかかることにより発症します。
過度な運動、大腿四頭筋の柔軟性低下、下肢アライメント異常(O脚など)が要因となることもあります。
10〜14歳の男子スポーツ選手に多く、女子では、1〜2年早く発症することもあります。
症状は、圧痛や腫脹、運動時痛を認めます。
画像所見では、X線より脛骨粗面の不整像、軟骨性の膨隆、遊離骨片がみられます。しかし、初期では、変化が見られない場合があるため、MRIが推奨されています。
○Sinding-Larsen-Johansson病
Osgood-Schlatter病と同様、大腿四頭筋の牽引力により膝蓋骨下極にストレスが生じ、膝蓋骨下極の骨分離像と痛みを引き起こします。
この病態は、安静により改善が見込まれ臨床上で問題となることが少ないとされています。
○鵞足炎
膝内側の鵞足(縫工筋、薄筋、半腱様筋)の腱付着部周囲に痛みを訴える症候群です。
原因や症状は、鵞足部に付着する膝屈筋群の付着部炎および同部の滑液包炎とされています。
ランニングやサッカーなど鵞足部に繰り返される負荷により炎症を生じ、疼痛や腫脹、運動時痛をきたします。
鵞足部周囲に痛みを訴える疾患は多岐にわたるため鑑別が必要です。
○腸脛靭帯炎(ランナー膝)
ランニングやサイクリングなどの膝屈伸運動を繰り返す運動により膝外側部痛を呈するオーバーユース症候群です。
腸脛靭帯は、屈曲30度前後において伸展で前方、屈曲に伴い後方に移動することで、腸脛靭帯と大腿骨外側部での摩擦が起こり発症すると言われています。
●治療
ジャンパー膝とOsgood-Schlatter病はともに成長により骨化が終了することで症状が軽快することが多いとされ腱炎、腱鞘炎の多くは保存療法で軽快するとされています。
初期には、炎症軽減目的にスポーツ活動の制限、疼痛部位のアイシング、消炎鎮痛薬が有効です。
環境、状況により理学療法により身体負荷の軽減や能力強化により改善を促すことも重要とされています。難渋する場合には、手術により早期回復を図ることもあります。
●前十字靭帯損傷の診断と治療
スポーツ外傷の中でも最も高頻度に発生する外傷の一つです。
受傷してからスポーツ復帰するまでには手術治療を行っても長期間のリハビリテーションを要します。
自然治癒することはほとんどなく、長期間放置される場合、半月板損傷や二次性変形性膝関節症を惹起する危険性があります。そのため、前十字靭帯再腱術が標準的な治療法とされていますが、移植腱選択や骨孔拡大、スポーツ復帰率などの課題も多いです。
○診断
受傷パターンが特徴的であるため病歴聴取が重要となり、非接触での受傷が70%と高頻度です。ジャンプ着地やストップ動作を伴う競技で多く見られます。
そのため、専門とする競技種目やポジション、競技特性を把握することが重要です。
○身体診察
前方不安定性を徒手検査および器具を定量的に評価すると同時に合併症の評価が必要です。前十字靭帯損傷では、側副靭帯60%、半月板損傷25〜65%、関節軟骨損傷16〜46%合併すると報告されています。
○画像診断
前十字靭帯損傷の関節所見として、Segond骨折が知られており、これは膝関節正面像で脛骨外側高原に認められる裂離骨折です。頻度は6〜9%と高くは無いが強く示唆され、近年では前外側回旋安定性に寄与すると注目されています。
○手術適応
活動性の高い若年者で、中高年であってもスポーツ活動への復帰を希望する例や日常生活にて膝崩れを自覚する例で適応となります。
二次損傷の観点から、受賞後3ヵ月以内の手術が推奨されています。
しかし、移植腱にて再腱する際に骨端線を貫くように骨孔をあけ縫合するため、成長期を終えるまでは避ける場合が多いそうです。
○術後リハビリテーション
術翌日より疼痛に応じて荷重歩行と可動域訓練を行い、等尺性筋力訓練を開始します。
術後1〜2週間で全荷重歩行を許可。
術後3ヵ月以降でランニング。
術後5ヵ月以降でジャンプ着地動作。
術後6ヵ月以降でスポーツ特異的な動作。
術後9ヵ月以降でスポーツ復帰の許可。
状態に応じて変動するため、評価を適切に行い、その都度プランを修正して早期回復を促す必要があります。
●さいごに
若年者のスポーツを活発に行っている方々に多い病態でした。
日頃から身体のケアを怠らずに十分注意してください。
何か違和感を感じる事があれば、休息・入念にセルフケアを行うことや早めに病院受診するなど早期に対処することをお勧めします。
当院では、このような勉強会を定期的に実施しております。今後も患者様のために研鑽していきます。
今後の投稿も楽しみにしていてください。