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クリニックブログ BLOG

院内勉強会「膝蓋骨脱臼・不安定症の診断と治療、小児の下肢アライメント異常」

●はじめに

こんにちは、理学療法士の山形です。

今回の院内勉強会では「膝蓋骨脱臼・不安定症の診断と治療、小児の下肢アライメント異常」について学んだので報告します。


勉強会の様子です。




●膝蓋骨脱臼・不安定症について

〈病態生理〉

・膝蓋骨(膝のお皿)は正常でも可動範囲は広いが、外力によって過度に外方へ偏位することで膝蓋骨脱臼や膝蓋骨不安定症が生じる


・ほとんどの症例で骨性あるいは軟部組織性(靭帯や筋腱など)の形態異常がベースとしてある。形態異常を伴わない場合もある。

・形態異常が強い場合、少し膝を捻っただけで脱臼することもある。


〈形態異常について〉

骨性形態異常

①大腿骨滑車低形成:滑車の溝が浅い状態。膝蓋骨脱臼の9割以上に認める。

②脛骨粗面の外偏位:脛骨粗面が外側に位置し、膝蓋腱に引っ張られ膝蓋骨が外方へと移動する力が働く。

③膝蓋骨高位:大腿骨滑車に対して膝蓋骨が近位に位置している状態。


④膝蓋骨形態:膝蓋骨の形態異常がみられる。



軟部組織性形態異常

エビデンスは少ないが、内側広筋の低形成、内側広筋の収縮が外側広筋に比べて遅いなどの報告がある。


〈発生頻度〉


・外来診療における膝外傷の約3%にみられる。
・年間10万人あたり5.8人。
若年者ほど頻度は多い
・性差はほぼなし(やや女性に多い)。


〈受傷機転〉

約2/3はスポーツ活動中に受傷している
・下肢を捻る動作を伴う競技に多いのが特徴。
・椅子からの立ち上がりなどでも受傷する場合がある。


〈再発率〉

・初回脱臼で骨軟骨骨折などがない場合、保存療法を選択されることが多いが20~50%で再脱臼が起こる
・大腿骨滑車の低形成を伴う若年者では約70%で再脱臼が起こる。


〈予後〉

・保存療法後、約50%は強度の高い活動への参加に制限を感じ、元のスポーツ活動に復帰出来なかったとの報告がある。
・手術後、不安定感は膝蓋骨がしっかりと安定化されても約10%に残存する。
・手術後、再脱臼は約4%に生じている。


●診断

〈問診〉

・受傷機転を確認する。
・初回なのか、初回脱臼ではない場合いつ初めてどのように起こったのか、
何回起こっているのか確認する。
・家族歴、遺伝性疾患の有無を確認する(約15%に家族歴を認める)。


〈理学所見〉

腫脹
・初回脱臼の場合、膝内側を中心とした広範囲に強い腫脹を認める。
・2回目以降は腫脹がないこともある。

疼痛
・大腿骨内側上顆付近に圧痛を認める。

整形外科テスト
・腫脹、疼痛、可動域が改善した後は、Apprehensionテストが有用である。

Apprehensionテスト
膝蓋骨を他動的に外方へ偏位させた時に、患者が恐怖感や不快感を訴えれば陽性となる。骨性形態異常が強い場合は健側でも陽性になることがある。


・その他に、Q angle、膝屈伸での膝蓋骨のトラッキング、下肢全体のアライメントなどを診察する。


〈画像診断〉

・X線では側方からCrossing sign(大腿骨滑車のラインと大腿骨顆部の前縁がつながってみえる)の有無と膝蓋骨高位を確認する。
・MRIでは急性期であれば大腿骨外顆外側と膝蓋骨内側に骨挫傷を認めれば膝蓋骨脱臼と診断できる。


●治療

・治療方針は形態異常の有無や骨折の有無を確認し、新鮮な関節面骨軟骨骨折を認めた場合、可能な限り骨軟骨片固定術を施行する。

・初回脱臼で関節面骨折がない場合、内側膝蓋大腿靭帯(midial patellofemoral ligament:MPFL)の裂離骨折があった場合でも、3ヶ月間の可動域訓練や内側広筋の筋力訓練といった保存療法、装具療法を行う。保存療法後、不安定感を訴える場合や反復性膝蓋骨脱臼例に対してはMPFL再建術を行う。

・MPFL再建術後2週間は軽度膝屈曲位装具による固定を行う。2週後から膝関節の可動域訓練、3週後から1/2荷重歩行訓練、4週後から全荷重歩行訓練を行う。

・術後3ヶ月間は膝蓋骨骨折の危険があるため積極的な膝関節伸展筋力訓練は行わない。

・術後3ヶ月後から軽いジョギング、4ヶ後から通常のジョギング、5ヶ月後からランニング、6ヶ月後からスポーツ活動復帰としている。


●小児の下肢アライメントについて

・O脚やX脚で受診される小児は多い。O脚は3歳以下、X脚は5歳以下で初診となることが多い。
・子どもからの痛みの訴えはなく、親が子どもがよく転んだり、見た目が気になり受診することが多い。
多くは自家矯正(自分の力で勝手に真っ直ぐになる能力)がみられるが、漫然と経過観察をしていると不要な手術が必要になることもある。

当院の院長曰く、2歳まではO脚、2歳でO脚から真っ直ぐになり、3,4歳でX脚に、5,6歳でX脚から真っ直ぐになるとのことです。


●初診時に必要な対応

〈くる病を見逃さない〉

・くる病は子どもの時にカルシウムとリンが骨基質に十分に沈着せず、骨塩が不十分な弱い骨ができてしまう状態である。大人では同じ病気を骨軟化症と呼ぶ。

・くる病の原因には、偏食によるカルシウム・リン・ビタミンD摂取不足、日光浴不足によるビタミンD合成不足、遺伝性疾患などがある。

・近年、偏食によるくる病は増加している。また日光浴不足によるくる病も最近の普通の家庭で起こりうる疾患となっている。

カルシウムとリンは、ビタミンDの働きにより腸から体内への吸収が促進される。
さらに、ビタミンDはカルシウムとリンの骨基質への沈着も調節している。


〈肥満が自家矯正を妨げる〉

・小児の肥満は、O脚の自家矯正を妨げBlount病(脛骨内側の骨の成長障害)へと誘導したり、X脚の自家矯正を妨げることが推測される。


●手術治療のタイミング

〈O脚に対して〉

・O脚は5歳以降ではほとんど自家矯正しないため、病的O脚かどうかは遅くとも5歳までに判定できる。

・5歳未満であっても脛骨近位骨端線内側に骨性架橋(骨端線を跨ぐような骨硬化像)が形成された場合、その後O脚は急速に進行するため、ただちに手術治療を行う。


〈X脚に対して〉

・X脚は、4歳までは生理的なものである可能性が高く、高率で自家矯正がみられる。そのため骨系統疾患を除けば手術適応はない。

・5歳以降で残存するX脚は、成長終了までの長期にわたり少しずつ自家矯正がみられるため、軽症であれば手術適応はない。重症例では、十分な自家矯正の可能性があっても、日常生活で耐え難いものであると思われる場合は保護者と相談のうえで手術治療を行う。

・実際には骨性系統疾患以外のケースで手術を行うことはほとんどない。


●さいごに

今回の勉強会で、個人的には膝蓋骨脱臼・不安定症では形態異常について、小児の下肢アライメントでは近年くる病が起こりやすくアライメント異常の要因になっていることがわかった。
特に小児の下肢アライメントに関して栄養が大きく関わっていることを知り、栄養に関する知識をつけてリハビリに活かせたらと思いました。

当院では、このような勉強会を定期的に実施しております。今後も患者様のために研鑽していきます。

今後の投稿も楽しみにしていてください。