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院内勉強会「転倒予防への運動介入の動向」

こんにちは、放射線技師の武田です。

11/29に行われた院内勉強会に参加しました。
今回は「転倒予防への運動介入の動向」について学んだ内容を、まとめたいと思います。

 

参考文献

特集 転倒予防最前線 「転倒予防への運動介入の動向」(整・災害 68:895―904,2025)

 

 

はじめに

 

高齢者の転倒は、骨折や外傷、要介護となりうる原因として非常に重要なテーマである。
転倒予防研究の歴史は比較的長く、遅くとも1960年には研究報告がなされている。

この約60年間、世界中で転倒予防に関する研究が盛んに行われたが、“高齢者における1年間の転倒者割合”は60年前と現在とで大きな差はなく、約30%のままである。

この間、日本では高齢者人口は7倍に増加しており、転倒発生件数も激増していると考えられる。

一口に「転倒」と言っても多種多様なパターンがあり、転倒の5W1Hを把握することでパターンを分析し、それに応じた適切な介入が必要だと考える。

 


図01 転倒予防研究の歴史

1960年~2020年で研究数は大幅に増加しているが、転倒割合を減らせてはいない。

 

【転倒の5W1H】

・When:いつ?⇒どのような時期に、何時頃

・Where:どこで?⇒どのような場所、環境で

・Who:誰が?⇒どんな年齢、どのような機能レベルの方が、どんな疾患を持つ方が

・What:何を?⇒転倒によってどのような外傷を受けたのか

・Why:なぜ?⇒何がきっかけで

・How:どのように?⇒どのような動作・方向で転んだ

 

 

転倒の発生月と時間帯

 


図02 転倒月と気温

・5月と10月の行楽シーズンに転倒率が高い。
⇒気温が15〜20℃と活動しやすい時期で、屋外で転倒するケースが多い。

⇒高齢者において17℃が最も活動的になりやすいことが報告されている。

 

・12月、1月、2月の冬季に転倒率が高い。

⇒「こたつ」などの暖房器具が、生活導線上の障害物となり、屋内で転倒するケースが多い。

⇒凍結して滑って転倒、寒いことで身体が動きにくいなども考えられる。

 


図03 転倒時刻

・午前10時~正午にかけて突出して多く、夕方にかけて緩やかに減少している。
⇒活動量が増える時間帯であり、屋内外ともに転倒の発生リスクが高まると考えられる。

 

転倒発生月と時刻で共通していたのが、「活動的」であることが転倒リスクを高めている点である。

転倒する要因はさまざまであるが、以下の3つに分類できる。

 

・内的要因:高齢者自身の身体的、心理的な状態など個人に内在する要因

⇒身体機能、筋力やバランス力の低下、感覚や認知機能の低下など。

 

・外的要因:周りの環境状態、外部の物理的要因

⇒段差、階段、気温、暗い場所、家具の配置、靴や杖があわないなど。

 

・行動要因:高齢者自身の行動パターンや習慣による要因

⇒急な動作、ながら歩き、手すりを使わない、むやみに出歩くなど。

 

 

活動的」というのは、内的要因からすれば身体機能を維持・向上させる上で非常に重要である。
一方で、行動要因からすれば「動くから転倒する」、言い換えれば「動かなければ転倒しない」ともなる。

転倒発生状況を適切に把握することで、安全に身体活動量を高め、転倒予防と身体機能の低下予防の両者に努めることが重要である。

 

 

 

転倒のきっかけと転倒方向

 


図04 転倒のきっかけ

・最も多いのは「つまずいて」32.3%、次いで「バランスを崩して」21.3%、「滑って」16.0%であった。

・加齢に伴い「つまずき」や「滑り」は減少し、「バランス崩壊」による転倒が増加していた。

 


図05 転倒の方向

・最も多いのは「前方への転倒」45.3%、ほぼ同率で「側方への転倒」21.2%、「後方への転倒」20.1%であった。

・加齢に伴い「前方への転倒」は減少傾向にあった。

 

転倒のきっかけと転倒方向の組み合わせをみると、以下のパターンが多かった。

・「つまずいて」⇒「前方への転倒

・「バランスを崩して」⇒「側方への転倒

・「滑って」⇒「後方への転倒

 

全転倒の中で最も多い組み合わせは、つまずいて前方へ転倒するものであり、全体の1/4を占めていた。
ただし、骨折しやすい転倒パターンは異なり、バランスを崩し側方や後方へ転倒した場合に骨折発生率が高まっていた。

 

 


転倒による外傷と骨折

 


図06 転倒による外傷

・全転倒の約6割がなんらかの外傷を伴い、骨折は全体の1割で発生していた。
⇒転倒すると約10%の確率で骨折する。

 

転倒による骨折と転倒方向の関係性をみると、以下のパターンが多かった。

・「前方への転倒」⇒前腕骨や膝蓋骨の骨折が多い。

前に手を出して橈骨遠位端骨折、手を出すのが遅れると膝が地面と衝突し、膝蓋骨骨折する場合が多い。

 

・「側方への転倒」⇒大腿骨や足関節の骨折が多い。

大腿骨近位部骨折は、最も深刻な骨折とされており、前方・後方への転倒ではほとんど発生せず、ほとんどが側方への転倒時に発生していた。

 

・「後方への転倒」⇒脊椎の圧迫骨折が多い。

いわゆる尻もちをついたときに発生しやすい。

 

 

 

代表的な転倒パターンと骨折部位 まとめ

 


図07 代表的な転倒の3つのパターン


表01 パターンまとめ

 

【ロバストとフレイルとは?】※1

フレイルとは、わかりやすく言えば「加齢により心身が老い衰えた状態」のことです。

海外の老年医学の分野で使用されている英語の「Frailty(フレイルティ)」が語源となっています。「Frailty」を日本語に訳すと「虚弱」や「老衰」、「脆弱」などを意味します。

厚生労働省研究班の報告書では
「加齢とともに心身の活力(運動機能や認知機能等)が低下し、複数の慢性疾患の併存などの影響もあり、生活機能が障害され、心身の脆弱性が出現した状態であるが、一方で適切な介入・支援により、生活機能の維持向上が可能な状態像」
とされており、健康な状態と日常生活でサポートが必要な介護状態の中間を意味します。

フレイルの判断基準には以下の5項目があります。

  1. 体重減少:意図しない年間4.5kgまたは5%以上の体重減少
  2. 疲れやすい:何をするのも面倒だと週に3-4日以上感じる
  3. 歩行速度の低下
  4. 握力の低下
  5. 身体活動量の低下

3項目以上該当するとフレイル、1または2項目だけの場合にはフレイルの前段階であるプレフレイルと判断します。

いずれも該当しない場合は「頑健な」「堅牢な」「強靭な」などを意味する英単語(robust)からロバスト(健常者、頑強者)と言われます。

 

※1

公益財団法人長寿科学振興財団「健康長寿ネット」

(フレイルとは | 健康長寿ネット)

国立研究開発法人国立長寿医療研究センター「健康長寿ナビ フレイルの原因は?」

(フレイルの原因は? | 国立長寿医療研究センター)

より一部抜粋しました。

 

 

 

転倒のメカニズムと転倒予防

 


図08 「つまずき」と「滑り」のメカニズム

歩行周期において足裏で地面を踏み、体を支える時期を立脚期、片方の足をもち上げて前に振り出す時期を遊脚期という。

 

【つまずき】

・遊脚初期~中期振り出し期に、つま先が床面に接触することで、前方への転倒を誘発する。

・遊脚初期~中期にかけての「つま先-床間距離」が重要と考えられている。

⇒距離が短くなるほど、つまずきやすくなる。

 

・高齢者と若年者、非転倒者と易転倒者でこの距離に差はないものの、この距離の変動は高齢者、なかでも易転倒者で増加することが知られている。

⇒歩行周期において、「つま先-床間距離」が長くなったり短くなったりと変動が大きい。

 

・易転倒者では一歩の距離や時間の変動が大きくなり、特に二重課題条件下(同時に2つのことを行う、歩きながら考え事など)でこの変動が増大するとされる。

⇒時折「つま先-床間距離」が短くなることが「つまずき」の危険性を高める。

⇒その「つまずき」による姿勢崩壊のリカバリー(ステッピング反応)ができない場合に転倒が発生する。

 

ステッピング反応とは?

バランスを崩した際に転倒を防ぐために、無意識に足を一歩踏み出す動きのことである。

加齢や病気、筋力低下などによってこの反応が遅くなったり、うまく出なかったりすると、転倒のリスクが高まる。

例)道を歩いているときに石につまずいて、傾いた方向へ一歩踏み出すなど。

 

転倒予防

・「つま先-床間距離」をしっかり保つために、つま先着地時の蹴り出しを強化する。
・二重課題条件下でも歩容が変動しないような能力を鍛える。
・ステッピング反応がうまく出るように足腰の筋力を強化する。

 

 

【滑り】

・前方に出した脚の踵接地時に、踵が前方へスライドすることで、後方への転倒を誘発する。

⇒床面にある紙や衣類、屋外で落ち葉を踏みつけた、路面の凍結、床面が濡れていた、地面のぬかるみなどが代表的である。

 

・身体機能の低下などの内的要因よりも、周りの環境などの外的要因によって「滑り」が誘発されることが多い。

⇒「つまずき」と異なり、後方へ倒れる場合はステッピング反応が出にくい。

 

・上記に挙げたような転倒リスクになる障害物を、あらかじめ視覚的に認知し、避けるような行動をとる必要がある。

⇒しかしながら、高齢者では視機能が低下していることも多く、特に動体視力の低下は著しい。

⇒易転倒高齢者は自身に近い部位に視線を向けながら歩行する特性があり、障害物を認知するのがさらに困難となっている。

 


図09 易転倒者の視線行動

・転倒ローリスク者は遠くを見て歩く。

・転倒ハイリスク者は足元ばかり見て歩く傾向にある。
⇒視線が近すぎると、周囲の状況把握が遅れ、転倒リスクが高まる。

 

 

転倒予防

・移動中に滑る原因になりそうな障害物を視覚的に認知し、避ける行動を選択する。
・複雑な課題環境下での移動を反復トレーニングさせることで、視線を少しずつ前方へシフトさせる。

⇒障害物を認知する確率が高まれば、滑りによる転倒を抑制するのにつながる。

 

 

【バランス崩壊】

・前述の通り、身体機能が低下したフレイル高齢者に多い。

⇒筋力低下が主な転倒要因となる。

 

転倒予防

・筋力強化やバランス能力の強化を目的とした運動を行う。
・その運動を継続させること。

 

 

 

運動継続の重要性

 


図10 運動の持続効果

12週間のレジスタンス運動を行い、その後24週間の運動休止期間を設け、筋力・骨格筋量の推移をグラフにした。

・運動を継続した12週間は筋力・骨格筋量共に上昇し続けた。

・運動休止12週間で筋力は半減し、24週間にはほぼ元に戻る。

⇒12週間(3ケ月)の運動介入プログラムは、1年間の転倒予防効果が確認されているが、その効果が2~3年と持続することはない。

⇒転倒予防効果を持続させるためには、運動の継続は必須である。

 

 

 

運動継続のポイント

 

・誰かと一緒に運動する:地域イベントや友人との参加

⇒楽しく運動を行える、一緒に運動するという約束の責任感から中断しにくい。

 

・決まった時間に運動する:朝のラジオ体操や夕食後の筋トレ

⇒「やれるときにやる」は、「いつもやらなくていい」になり、運動の中断につながりやすい。

⇒運動をするトリガーを決めておくと、習慣化しやすいと個人の経験から感じる。

例)トイレに行ったらスクワット、夜9~10時はジムに行くなど。

 

・計画的に休む:特定の休養日を設けるなど

⇒休む日を決めなければ、結果的に「いつ休んでもいい」と運動中断につながる。

⇒休む日を決めることは、運動する日を決めることと同じである。

 

・運動実施状況の見える化:運動したことをノートやカレンダーに記録

⇒今までの積み重ねが見えてくると、自然と止めなくなると個人の経験から感じる。

 

 

 

さいごに

 

今回の勉強会では、高齢者の転倒を様々な観点から学ぶことができました。
転倒は一見なんてことない事故に思えますが、骨折や寝たきりにつながる重大な問題です。
私たち放射線技師も、画像診断を通じて転倒の背景や骨折の種類を理解し、患者様に寄り添った医療を提供していく必要があります。

当院では、このような勉強会を定期的に実施しております。今後も患者様のために研鑽していきます。今後の投稿も楽しみにしていてください。

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