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院内勉強会「小中学生の投球障害肩」

はじめに

 

こんにちは、放射線技師の武田です。

11/16に行われた院内勉強会に参加しました。

今回は“肩の痛み”として、「小中学生の投球障害肩」についてまとめたいと思います。

 

参考文献

MB Orthop. 35(2):1-8,2022 小中学生の投球障害肩

MB Orthop. 35(2):9-14,2022 年代別・レベル別の投球障害肩の病態

 

 

 

投球障害肩とは?

 

投球障害肩(Pitching Shoulder Injuries)は、野球やソフトボールなどの投球を行う選手によく見られる怪我です。主に肩の筋肉や靭帯が損傷することが多く、以下のような症状が現れることがあります。

 

痛み:投球時や肩を動かすときに痛みが生じる。

腫れ:肩の周りが腫れることがある。

動きの制限:肩の動きが制限され、正常な動作ができなくなる。

筋力の低下:肩の筋力が低下し、投球の力が減少する。

 

投球障害肩の原因としては、過度な投球、不適切なフォーム、筋力不足、または急激な負荷の増加などが考えられます。治療には、休養、物理療法、筋力トレーニング、投球フォームの改善、場合によっては手術が必要になることもあります。

 

ただし、これらは成人期の投球障害肩の話であり、成長期である小中学生は体が未発達なため、異なる特有の投球障害肩が生じます。

 

ここからは小中学生の投球障害肩として

・リトルリーグ肩

・Os acromiale(肩峰骨端線閉鎖不全)

・胸郭出口症候群および四辺形間隙症候群

・第1肋骨疲労骨折

についてまとめていきます。

 

 

 

【リトルリーグ肩】

 

リトルリーグ肩とは、上腕骨近位骨端線が閉鎖する前である小中学生が、投球による繰り返しの物理的ストレスなどによって、上腕骨近位骨端線損傷を起こす投球障害肩の一種である。

 

対象

 

・小学高学年から中学前半でみられることが多い。

 ⇒11~14歳が好発年齢とされている。

 

・上腕骨近位骨端線は16~19歳で閉鎖するとされており、小中学生の大半は未閉鎖である。
 ⇒未閉鎖であれば何歳でも起こりうる。

 

 

原因

 

・投球の繰り返しによる物理的なストレス。

 

・上腕骨は骨成長に伴って元々の後捻が減少していくが、投球による物理的ストレスによって上腕骨後捻の減少が妨げられる。

 ⇒上腕骨が捻じれて、骨端線部分に余計なストレスがかかる。

 

・上腕骨近位骨端線の脆弱性。

 

・軟部組織の柔軟性。

 

 

単純X線写真での分類(Kanematsu分類)

 ⇒肩外旋位での肩関節正面像で上腕骨近位骨端線を評価する。

 


図1 Kanematsu分類

左a:Grade 1:骨端線外側のみの拡大

中b:Grade 2:骨端線全体の拡大と骨幹端の脱灰化

右c:Grade 3:骨端線でのすべり症

 

 

診断

 

・Grade 1(Kanematsu分類)は部分的な拡大となるため、骨成熟の個人差も考慮し、健側の比較が必要となる。

 ⇒痛みのない小学生野球選手でも投球側と非投球側を単純X線写真で比較すると投球側の骨端線の幅が広いことが報告されている。

 ⇒診断確定には単純X線のみならず、圧痛部位の確認、外転や外旋抵抗運動での骨端線部の疼痛の確認が必要である。

 ⇒疼痛部位は上腕骨近位骨端線の高さで肩後外側であることが多いが、前外側や前方の痛みを訴える場合もある。

 

・エコー検査では上腕骨近位骨端線の後外側において患健差だけでなく、骨幹部側から骨端線へ流入する血流増加が確認できる。

 


図2 上腕骨近位骨端線損傷のエコー画像(カラードプラ画像)

骨頭(*)の遠位にある上腕骨近位骨端線(矢印↑)に向かって血流(△矢頭)増加がみられる。

 

・リトルリーグ肩は基本的に予後良好であるが、Grade 3(Kanematsu分類)では稀に骨頭すべりが生じることがあり、上腕骨のアライメントに影響を与える可能性がある。

 ⇒過度の変形は将来にわたって影響を及ぼす可能性もあり、繰り返しの本疾患の発症は避けたほうが賢明と考える。

 


図3 投球による上腕骨近位骨端線損傷の一例((Kanematsu分類:Grade 3かは不明
)

小学6年生男児、数か月前から投球時の右肩痛を自覚していたが、ある一球の投球により右肩痛の増悪により挙上不能になり受診した。

左a:肩関節単純X線写真正面像(受傷2週間)

 ⇒骨頭が外反しているように見える。

中b:3D-CT画像(側面像)

 ⇒骨頭の前屈(前傾)を認める。

右c:3D-CT画像(後方像)

 ⇒骨頭は上腕骨に対して外旋しており、上腕骨全体としては後捻が増大している可能性がある。

 

 

治療

 

・投球禁止による安静とリハビリテーションによる保存的治療を行う。

 ⇒回復力の強い場所の損傷であるため、安静にすることで自然に治癒する。

 

・全力投球は控えて、段階的な投球再開を推奨する。

 ⇒抵抗運動での痛みが消失してから投球再開を行う。

 

・投球中止期間にリハビリテーションなどで、肩甲帯機能低下と下肢のタイトネスを回復させる。

 

・全力投球再開後も定期的に機能の再低下が生じないかをチェックする。

 

 

 

【Os acromiale】

 

Os acromialeとは肩峰先端の骨が成長過程で癒合せず、骨端線(成長板)が残ったままの状態のことである。(肩峰骨端線閉鎖不全)

 


図4 os acromiale

・通常、15~18歳で骨端線は閉鎖する。

 

・閉鎖不全は1~15%と報告により様々である。

 

・ほとんどが無症候性であり、成人期の腱板断裂との関連が議論されている。

 

・オーバーヘッドスポーツ選手の肩痛原因の一つとなりうる。

 

・骨端線閉鎖前である成長期野球選手でも痛みを生じる場合がある。

 

・15~25歳の2,372例の投球障害肩MRIでは、2.6%で骨端線の未閉鎖と骨端線周囲の浮腫とその圧痛がみられた。

 

・症状は運動時の痛み、夜間痛、可動域制限、筋力低下が生じる。

 

・治療は健側の骨端線未閉鎖の時期には保存療法が行われる。

 ⇒健側の骨端線閉鎖以降で症候性の場合には、骨端線閉鎖を目的として手術治療が行われる。

 

 

 

【胸郭出口症候群および四辺形間隙症候群】

 

〈胸郭出口症候群〉

胸郭出口症候群とは、首と胸の間にある胸郭出口で腕神経叢や血管が圧迫され、腕や手、肩に痛みやしびれ、筋力低下などの症状を引き起こす病気である。

 

・障害を受ける腕神経叢の経路は…

 ⇒頚部では前斜角筋、中斜角筋、第1肋骨で形成される斜角筋隙から鎖骨下を通過する。

 ⇒鳥口突起、小胸筋、胸郭に囲まれたスペースを通過する。

 

・投球障害としての胸郭出口症候群では、投球動作中に投球側の上肢を挙上することが誘因となり、腕神経叢が牽引あるいは絞扼、圧迫により神経症状を呈する。

 

・投球動作特有の誘発因子として…

①頚部の非投球側への側屈や回旋による斜角筋の緊張による圧迫。(斜角筋症候群)

 


図5 投球動作における斜角筋

加速期に頚部の非投球側への側屈、回旋が生じるため、斜角筋(矢印)の負荷が増大すると考えられる。

 

②肩外転に胸郭の挙上と鎖骨の挙上が制限され後退のみが生じることによる肋鎖間際の狭小化による圧迫。

 


図6 手術に至った胸郭出口症候群症例の肋鎖間隙

上肢下垂位に比べて挙上位では鎖骨が後退し、狭窄がみられる。

 

③不十分な肩甲骨の上方回旋に対して肩甲上腕関節の外転による小胸筋の緊張による圧迫、牽引。(過外転症候群=小胸筋症候群)

 

 

〈四辺形間隙症候群〉

四辺形間隙症候群とは、腕神経叢から分岐した腋窩神経が、肩後方付近の四辺形間隙と呼ばれる筋肉のすき間を通過する際に圧迫され、痛みやしびれ、筋力低下などの症状を引き起こす病気である。

 

・四辺形間隙は腋窩から肩後方の上腕骨、小円筋、大円筋、上腕三頭筋内側に囲まれた領域とされる。

 


図7 四辺形間隙(#)

 

・肩外転により小円筋、広背筋、大円筋は筋緊張が生じる。

 

・さらに投球動作では肘関節を屈曲するため三頭筋にも筋緊張が生じ、四辺形問際は狭小化し、腋窩神経の絞扼性障害が生じると考えられている。

 

 

診断

 

・様々な症状を呈し、画像での器質的変化に乏しいため、神経が原因となる疾患を疑わないと診断にはたどり着かない。

 ⇒肩の痛み、前腕のしびれ、手のしびれ、上腕外側の苦しさ(橈骨神経走行部に沿った症状)、挙上困難、上肢のだるさ、重さ、脱力など、様々な症状が組み合わさる。

 ⇒肩挙上時に、安静時に、投球時など、症状が出る状況も様々である。

 ⇒オーバーヘッドアスリートにこうした疾患が生じることを前提に診察することが重要である。

 

・肩甲骨の位置異常、腕神経叢の走行に沿って、斜角筋隙、鎖骨下、小胸筋(鳥口突起の内側)、肩後方、四辺形間隙の圧痛を確認する。

 ⇒肩前方、鎖骨部の痛みがあれば胸郭出口症候群、肩後方の痛みがあれば四辺形間隙症候群の可能性を考慮する。

 

・胸郭出口症候群の症状誘発検査であるMorley testRoos testなどの陽性例はわかりやすいが、臨床症状、症状誘発検査、画像検査など補助的な検査の組み合わせで診断しているのが現状である。

 

〈胸郭出口症候群の代表的な症状誘発検査〉

・Morley test(モーリーテスト)

胸鎖乳突筋鎖骨頭の外縁から1横指半~2横指分外側≒鎖骨上窩(鎖骨の上側のくぼみ)を押して、腕神経叢を圧迫する。

 ⇒強い痛み、腕にかけて痛みやしびれが出たら陽性とする。

 ⇒陽性の場合、斜角筋周囲に原因がある胸郭出口症候群(斜角筋症候群)と推定できる。

 

・Wright test(ライトテスト)

座位で両肩関節90度外転、90度外旋、肘90度屈曲位(腕を開いて肩まで挙上し、手のひらが上になるように肘を直角に曲げる)をとらせ、手首のところの橈骨動脈の脈を確認する。

 ⇒橈骨動脈の脈が弱くなるか触れなくなり、手の血行がなくなり白くなれば陽性とする。

   ⇒陽性の場合、小胸筋周囲に原因がある胸郭出口症候群(過外転症候群=小胸筋症候群)と推定できる。

 

・Roos test(ルーステスト)

ライトテストと同じ肢位で両手の指を3分間屈伸(グーパー)させる。

 ⇒手指のしびれ、前腕のだるさのため持続ができなければ陽性とする。

 

・Adson test(アドソンテスト)

腕のしびれや痛みのある側に顔を向けて、そのまま首を反らせ、深呼吸を行なわせて鎖骨下動脈を圧迫させ、手首のところの橈骨動脈の脈を確認する。

 ⇒橈骨動脈の脈が弱くなるか、触れなくなれば陽性とする。

 

 

治療

 

・予防と保存療法が大切であり、適切に行えれば手術に至る例は非常に稀である。

 

・肋鎖間隙の狭小化や過外転症候群では肩甲帯機能低下が原因となることが多く、リハビリテーションで肩甲帯機能改善させることにより、症状が改善する例がほとんどである。

 ⇒肩甲骨の位置異常は下制、下方回旋が多く、鎖骨の位置異常、運動障害を生じるため、これらを改善させる。

 

・手術に至る重症例では、頚助や斜角筋隙や肋鎖間際の構造的異常を伴うことが多い。

 

※頚助とは?

・第7頚椎から出る余分な肋骨のこと。

 

・胎生期の下位頚椎から出ていた肋骨が遺残する先天的な奇形である。

 

・片側のみや両側に存在することがあり、大きさも様々である。

⇒完全な肋骨で胸骨と関節を作るものから、小さくて第7頚椎の横突起からわずかに飛び出た痕跡的なものまで存在する。

⇒途中で終わっている頚助の先端からは索状の線維性組織が前方に伸びて第1肋骨の前斜角筋が停止する付近に付着する。

 

・一般的に無症状であるが、頚肋が存在することで腕神経叢や血管が圧迫されることがあり、胸郭出口症候群の原因となりうる。

 

・鎖骨上窩の頚椎寄りの触診で隆起を触れることがある。

 ⇒触診で触れないことも多いので、確定診断にはX線検査で、第7頚椎ときには第6頚椎から外側に伸びる頚肋の存在を確認する。

 

・頚助が原因で痛み、しびれなどの症状が強い場合は、手術で頚肋およびその先端からのびる索状物を切除する。

 

 

 

【第1肋骨疲労骨折】

 

第1肋骨が繰り返しの運動や負荷によって疲労し、最終的に骨折する状態である。

 

・頻度は低いが一定数存在し、他院で投球障害肩と診断されリハビリテーションを開始したところ症状が悪化し受診する症例もある。

 

・肩甲間部痛や肩後方痛を呈するため、胸郭出口症候群や四辺形間隙症候群との鑑別が重要である。

 

・発症がはっきりしていることが多く、疼痛部位を正確に聴取し、単純X線で診断可能である。

 ⇒初期の単純X線像では所見が認められない場合があるため、エコー検査やMRIを行うこともある。

 


図8 右第1肋骨疲労骨折 単純X線像

矢印部に骨折をみとめる。

 

・治療は一定期間の安静とし、疲労骨折が生じた部位に負担をかけないことが基本である。

 

 

 

さいごに

 

今回は小中学生の投球障害肩について学び、まとめました。

小中学生は成長期であり、安静により症状が改善するケースが多いです。

投球障害は繰り返す投球動作に原因があることが多いため、再発例や症状が改善しない場合は、それらを繰り返す前に専門の施設での治療が望ましいと思われます。

今回勉強した知識がレントゲンを通して、患者様に寄り添った医療提供につながればと思います。

当院では、このような勉強会を定期的に実施しております。今後も患者様のために研鑽していきます。今後の投稿も楽しみにしていてください。