こんにちは、理学療法士の秋葉です。
10月5日に行われた院内勉強会に参加しました。
今回は「妊娠中・産後の問題とその対策」について学んだことをまとめていきます。
〈はじめに〉
妊娠・出産を経て、女性の体は大きなダメージを受けます。(交通事故にあった際と同程度の損傷、とよく言われますね。)
なかでも特に、腹部・骨盤底筋群は大きな影響を受けます。腹筋の機能低下による腰痛や恥骨痛、仙腸関節痛などの運動器症状や、骨盤底筋群の筋力低下による尿失禁・骨盤臓器脱(子宮や膀胱、大腸といった臓器が徐々にさがり、膣や肛門から体の外へ出てしまうこと)などの骨盤底機能障害が多くみられます。
具体的には、腰背部痛が妊婦さんの72%に、尿失禁が産後3-5日の女性の30.8%にみられた等の報告があり、多くの女性がマイナートラブルを経験していることがわかります。
今回はこのような妊婦さん・経産婦さんのマイナートラブルについて詳しくまとめていきます。
●妊娠・分娩に起こりうる腹部の変化について
妊娠・分娩が腹部に及ぼす影響として、胎児の成長に伴い腹筋が伸長されることで[腹直筋離開(DRA)]を生じることがあります。(産後1年の女性のDRA有病率は82.6%にのぼるという報告もあります。)
腹直筋離開とはその名の通り、腹直筋(おなかの真ん中部分の筋肉)が白線という部分で離開していしまう状態です。(離開、といっても実際に穴があいているわけではなく、だるんと伸びってしまっているような状態です。)
腹直筋離開が生じている腹部は、下の図のように、上からおなかを押すと指が奥まで入りこんでしまいます。↓
また、これによりダメージを受けるのは腹直筋だけではありません。腹直筋が張力を失ってしまうことで、そこにくっついている腹斜筋や腹横筋(腹直筋よりも深層〔臓器側〕の筋肉)など、腹部のほかの筋肉の機能低下も引き起こしてしまいます。
さらには、筋膜の動きが低下することで股関節の屈曲の可動性が低下し、仙腸関節部分に症状がでることまであります。
●妊娠・分娩に起こりうる骨盤底機能の変化について
上記に加え、骨盤底機能も大きな影響を受けます。胎児の成長に伴って妊娠後期には会陰全体が下降し、坐骨(おしりの下の出っ張っている骨)のライン近くまで下降します。
このような骨盤底機能の変化は腹圧性尿失禁や切迫性尿失禁、骨盤臓器脱などにつながることが多く、その評価や対策が必要になってきます。
骨盤底機能障害がみられる場合、まずは骨盤底筋群の筋機能(筋力や持久力、瞬発力など)を評価する必要があります。
指標として、mOGSという機能低下の程度分類が用いられ、それに基づくPERFECTスキームに基づいた治療選択が行われます。
分娩時には、骨盤底筋群のうち恥骨/尾骨筋に最も強い負荷がかかるといわれており、加えて肛門挙筋の損傷もしばしばみられます。損傷した尾骨筋や肛門挙筋が過緊張となることで動きが出にくくなっている場合、仙腸関節痛や尾骨痛につながることがあります。
また、肛門挙筋の損傷はその後の骨盤臓器脱と強く関連しているともいわれており、多くのマイナートラブルの原因になっていると考えられます。
●帝王切開の場合は
帝王切開の場合、上記DRAが経膣分娩の場合よりも有意に生じやすいといわれていることに加え、術創部の硬さが生じることで、腹式呼吸時に創部周辺の皮膚の動きが乏しくなり、骨盤底部の動きも低下すると考えられます。
さらには腹部・骨盤底部と連結する股関節の可動性も低下することになるため、仙腸関節痛などのマイナートラブルに特に注意が必要と考えられます。
●マイナートラブルへの対応時の注意点、およびトラブルの予防について
産後から腰痛や尿失禁などのトラブルがある際、上記のような腹部・骨盤底筋群に機能障害を生じている可能性が高いと考えられます。
DRAがある場合、帝王切開後で術創部の癒着や筋・筋膜の滑走不全がある場合、胸椎や股関節の可動性やアライメントの問題がある場合、骨盤底筋群自体の過緊張や柔軟性に問題がある場合は、初めにそれらに対するトレーニングを行うとよいとされています。
さらにその後、骨盤帯の安定化を図るために、骨盤底筋群や腹横筋をはじめとするインナーマッスルトレーニングが推奨されます。
また、骨盤底筋のトレーニングは初産婦における尿失禁の予防にも効果的であることがわかっています。
妊娠期に尿失禁などの骨盤底機能障害の症状がある場合、早期から骨盤底筋トレーニングを行うことが重要になります。
●さいごに
今回は、産前産後におこりやすいマイナートラブルについて、その詳細を学ぶことができました。
妊娠・出産により生じた腰痛のお悩みで通院される方を治療する際などに、生かしていきたいです。