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炎症期凍結肩の病態解釈と治療戦略ー肋骨モビライゼーションー

こんにちは、理学療法士の福田です。

9月14日に行われた院内勉強会の参加しました。

今回は「炎症期凍結肩の病態解釈と治療戦略ー肋骨モビライゼーションー」についてまとめます。


〈はじめに〉
皆さん、[凍結肩]という言葉は聞いたことがありますか?
世間一般的に[五十肩]と認識され、男女問わず40〜50代に発症するとされています。肩関節周囲部位の疼痛関節可動域制限が生じます。

凍結肩の発症メカニズムは不明ですが、分子生物学手法を用いた病態の解明から、関節包(図1)に病的な変化をきたしているのは明らかです。しかし、その変化を引き起こすトリガーとなった病因、病態は明らかになっていません。
一方、機能的側面から凍結肩を観察してみると関節包外の病態(関節外因子)の存在が明らかになってきました。
その中でも特に[炎症]について、その病態と治療戦略についてまとめます。


図1 肩関節関節包 
肩甲上腕関節を覆っている袋状の組織で、肩関節上方、前方、下方、後方を包んでいます。関節の動きをなめらかにするための関節液が貯留されていたり、関節を安定させる働きがあります。

●炎症期の曖昧さ
凍結肩の病期には、[炎症期][拘縮期][寛解期]に分類され、肩関節の可動域や痛みによって振り分けられます。

炎症期・・・肩関節の可動域が一定のレベルまで達してない(屈曲100°未満かつ外旋10°未満、内旋L5未満)状態だと記載されています。これは関節包主体とした拘縮の特徴である全方向性の強い可動域制限を意味しています。

拘縮期・・・夜間痛や安静時痛など高度な疼痛が特徴とされていますが、可動域に関して明確に規定されていません。

しかし実際の臨床現場では、疼痛は軽度だが可動域制限が拘縮期のレベルを満たさない例や、夜間痛など疼痛が強いにもかかわらず全方向性の強い可動域制限を有する症例も少なくありません。

寛解期・・・肩の動きが徐々に回復し、拘縮が改善してきます。痛みもほとんどなくなる時期です。

したがって[炎症期]としての疼痛のみに注目するのではなく、[拘縮期]への移行期と捉え、可動域も含め複合的に観察する必要があります。


〈凍結肩の病態進行についての仮説〉
病態進行の流れを3期に分けて解説します。

まず凍結肩発症の背景として、加齢などによる胸郭運動の低下があるとされています。胸郭運動が低下した状態で肩を使うと、肩甲上腕関節の運動量が増えるため烏口上腕肩甲靱帯(図1)に機械的ストレスが生じ、周囲の炎症、烏口上腕靱帯の肥厚や伸張性低下が生じます。烏口上腕靱帯は関節包と連続した複合体を形成しているため、関節包の前方から後方へ連続性に病変が波及し関節拘縮が進みます。

①胸郭運動の低下(凍結肩の前段階)
上肢挙上に伴い、肋骨は挙上・後方回旋し、胸椎は伸展することで肩甲骨運動補助します。したがって、胸郭運動の低下により肩の可動域制限が出現すると考えられています。また、胸郭運動が低下した状態で肩甲上腕関節を動かすことにより烏口上腕靱帯への負荷が増大し、病的変化を惹起する可能性があります。

[凍結肩]の定義が[関節包を主体とした拘縮]とすると、この時期は関節包に病変が及んでいないため厳密には凍結肩ではなく、その前段階とも解釈できます。

②烏口上腕靱帯複合体の病的変化(炎症期凍結肩)
烏口上腕靱帯は烏口突起を頂点とし、後方の棘上筋・棘下筋と下方の肩甲下筋を包み、関節包へと移行します。また、腱板疎部構成しており、独立した組織としてではなく複合体として捉えると理解しやすいです。

組織学的に烏口上腕靱帯は血管や神経が多いため、疼痛に対する感受性の高い組織と観察されます。

これらの特徴により、胸郭や肩甲骨運動の低下で烏口上腕靱帯複合体の仕事量が代償的に増加すると、血管新生を伴う炎症が生じやすく、線維化・肥厚・伸張性の低下へ進行し疼痛や拘縮が出現すると考えられています。
この時期は強い疼痛が伴い、烏口上腕靱帯複合体に生じた炎症の関節包内への移行期と捉えることができます。

③関節包病変の進行(拘縮期凍結肩)
烏口上腕靱帯複合体に生じた軟部組織の伸張性の低下は、前方の関節包から連続性に後方へ進行していきます。その機序として、関節包の一部が拘縮すると隣接する関節包に代償負荷増大し、炎症と線維化を生じ拘縮に至ります。


●炎症期凍結肩の可動域制限
上記の病態進行過程を踏まえると、炎症期は・・・

「胸郭運動低下を背景に烏口上腕靱帯複合体の伸張性が低下した時期」と捉えることができます。

[外旋制限]:一般的に烏口上腕靱帯の伸張性が低下すると外旋が制限されると理解されています。

[伸展制限]:烏口上腕靱帯の肩甲下筋に付着する線維が緊張することで伸展制限に関与します。

[屈曲制限]:烏口上腕靱帯の棘上筋に付着する線維が緊張することで屈曲制限に関与します。


●炎症期凍結肩への治療戦略
炎症期凍結肩は「胸郭運動低下を背景に烏口上腕靱帯複合体の炎症・伸張性の低下が生じており、安静時・夜間痛を伴うことが多い時期」述べられています。したがって治療戦略は、

①炎症の鎮静化
②胸郭運動の改善
③烏口上腕靱帯複合体の伸張性改善
となります。このなかでも①は特に重要であり、初期から徹底した炎症コントロールが必須になります。なぜなら、疼痛が強い状態では②、③の反応も悪くなるからです。

◆①炎症の鎮静化
夜間痛が消失するまで関節包内にデキサメタゾンと局所麻酔の混注を行います。

◆②胸郭運動の改善(肋骨モビライゼーション)
疼痛の改善状況に合わせながら、胸郭運動の改善を進めます。理学療法士による徒手療法が主軸となりますが、セルフトレーニングとしても有用な「肋骨モビライゼーション」を紹介します。

1)外側肋骨
烏口突起の内側2横指で鎖骨の下に第2肋骨を触知します。第2肋骨外側部を把持し上下に10回動かします。第3、4肋骨も同様に動かします。自身で行う場合などは片手でも可能です。(図2)


図2 外側肋骨モビリゼーション

2)内側肋骨
胸肋関節の外側で鎖骨の下に第1肋骨を触知します。肋骨内側端を把持し上下に10回動かします。第2〜4肋骨同様に動かします。自身で行う場合は片手でも可能です。(図3)


図3 内側肋骨モビリゼーション

3)胸鎖関節
鎖骨内側端を把持し上下に10回動かします。自身で行う場合は片手でも可能です。(図4)

図4 胸鎖関節モビリゼーション

ここで区別しておきたいのが「大胸筋リラクゼーション」です。大胸筋も凍結肩発症に関与する関節外因子のひとつです。上腕骨の内旋筋でもある大胸筋が緊張し硬くなれば、上肢挙上に伴う外旋運動が制限され挙上も制限されます。また大胸筋は、鎖骨の胸骨半分と胸骨、第2〜7肋骨の肋軟骨の広範囲の起始部をもつため、大胸筋のタイトネスは胸郭運動低下に関与します。

したがって、大胸筋も治療ターゲットとして重要ですが、「肋骨モビライゼーション」「大胸筋リラクゼーション」の効果や適応の違いが曖昧です。そこで両者の違いを検討した結果、肋骨モビライゼーションの方がより、可動域制限に有利な手技であることが明らかになりました。しかし、大胸筋緊張が亢進している症例には大胸筋リラクゼーションは必須であり、病態に合わせたアプローチが必要です。


◆③烏口上腕靱帯複合体の伸張性改善(内旋マニュピレーション)
これも理学療法士による徒手療法が主軸になりますが、内旋(結滞)制限が残存する例も少なくありません。

水平内転、2nd内旋、3rd内旋(屈曲90°での内旋)、結滞の順に他動強制して運動を行います。この際、骨頭が前方へ偏位しやすいので、前方から後方へ骨頭を押し込むように肩でサポートしながら、痛みの許容範囲で実施するのがポイントです。(図5)

図5 内旋マニピュレーション(結帯)

この手技により烏口上腕靱帯の棘上筋側線維が烏口突起部で断裂することが確認されました。内旋マニュピレーションは、関節包を破断させる非観血的授動術と比較し、即時効果はないものの手技をきっかけに徐々に可動域の回復が進んでいきます。

<おわりに>
凍結肩は日常診療で遭遇する機会の多い疾患でありながら、病態が不明であり、治療法も確立されていません。凍結肩の予後を調査すると、約50%で疼痛や可動域制限などの愁訴を残し、満足できる状態への自然寛解は期待できず、適切な治療が必要なことがわかります。今回の勉強会で学んだことが、今後の治療にしっかりと生かしていけるように研鑽していきます。

今後の投稿もお楽しみに!