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院内勉強会「ばね指」「ドケルバン腱鞘炎」「へバーデン結節」

はじめに

こんにちは、放射線技師の武田です。

1/12に行われた院内勉強会に参加しました。

今回は“女性によくみる手疾患”として、「ばね指」「ドケルバン腱鞘炎」「ヘバーデン結節」についてまとめたいと思います。

 

参考文献

MB Orthop. 35(4):1-6,2022 ばね指, ドゥ・ケルバン腱鞘炎の診断と治療

MB Orthop. 35(4):7-11,2022手指の変形性関節症(へバーデン結節を中心に)の診断と治療



【ばね指】

指は腱によって曲げ伸ばしをすることができます。手を握ったりする強い力を発揮する筋肉は前腕にありその力を腱が伝えます。その通り道で指を曲げる屈筋腱が浮き上がらないように押さえているのが靱帯性腱鞘(じんたいせいけんしょう)と呼ばれるものです。丁度、その構造はベルトとベルト通しの関係に似ています。

この靱帯性腱鞘は指に部分にありますが、それが終わる指の付け根付近に力がかかり炎症を生じやすいところがあります。 その部分の腱や腱鞘が炎症を起こし、“腱鞘炎”になり、さらに進行すると引っ掛かりが生じばね現象が起こります。 これを“ばね指”と呼んでいます。

(公益社団法人 日本整形外科学会 ばね指 より引用 「ばね指(弾発指)」|日本整形外科学会 症状・病気をしらべる (joa.or.jp)

 

 

疫学

 

・妊娠時や産後、更年期の女性に多く、男女比は1:2~6で、30歳以上の成人の生涯罹患率は2.2%と報告されている。

⇒女性ホルモンのバランスが乱れやすい時期であり、それによってむくみやすくなる。

⇒むくみにより腱鞘の内圧上昇、腱と腱鞘が当たりやすくなる。

 

・インスリン依存性糖尿病患者の場合、生涯罹患率は10%と報告されており、男女比は差がなくなり1:1となっている。

⇒血糖値(HbA1c)が高いほどばね指のリスクが上昇する。

⇒血糖値が高いと指の屈筋腱などの結合部と腱鞘が厚くなり、障害が起こる。

 

 

病態

 

・屈筋健と腱鞘のサイズのミスマッチによって生じる腱の滑走障害である。

手指屈筋健鞘A1部が最も頻度が高い。

 


図 手指の関節名

手指屈筋健鞘A1部=MP関節掌側=指の付け根

指先に行くほどA2.3.4.5となる

 

・最も頻度が高いのは、指の使いすぎ等による機械的な刺激で、腱鞘・腱の肥厚を生じ、滑走障害を引き起こす特発性のばね指である。

 

・腱鞘を通る腱の滑走障害であるため、屈筋健の肥厚・腱鞘滑膜の浮腫や増生をきたす病態であれば、ばね指となりうる。

⇒関節リウマチ、ムコ多糖症など

 

 

診断

 

・典型例では屈曲位からの伸展時に、バネ現象(スナッピング)を認める。

⇒指がスムーズに曲げ伸ばしできず、途中でカクッとなる現象である。

 

・腱の滑走障害は主に手指屈筋健鞘A1部(=MP関節部=指の付け根)で生じているが、バネ現象はIP・PIP関節で生じるように見えるため注意が必要である。

 

・重症例では、一度深屈曲するとIP・PIP関節の自動伸展ができず、屈曲位でのロッキングを呈する。

 

・疼痛閾値の低いor疼痛に対する恐怖心が強い患者では、指の屈曲・伸展拘縮をきたす場合もある。

⇒拘縮により指の可動域が失われているため、バネ現象は認めない。

⇒過去にバネ現象があったか、単純X線像などで外傷・変形性関節症などの他疾患を除外したうえで、手指屈筋健鞘A1部上に圧痛があるか、総合的に診断する。

 

・臨床的な重症度を示すQuinnellの分類がよく用いられる。

 

〈Quinnellの分類〉

 

Grade Ⅰ:疼痛と引っかかり感を訴えるが、診察時再現性はない。手指屈筋健鞘A1部上に圧痛がある。

Grade Ⅱ:診察時に引っかかりを認めるが、患者は指を屈曲位から自動伸展可能である。

Grade ⅢA:診察時に引っかかりを認め、患者は一旦指を屈曲すると自動伸展できず、他動的に指を伸展しなければならない。

Grade ⅢB:診察時に引っかかりを認め、患者は指の自動屈曲ができない。

Grade IV:診察時に引っかかりを認め、PIP関節は屈曲拘縮を呈する。

 

※高度の伸展拘縮を呈する重症例は分類不能である。

 

 

治療

 

①保存療法

 

・局所の安静で刺激を少なくする。

⇒装具を当てて固定する場合もあるが、関節固定角度・範囲は報告によって様々である。

 

・ステロイド腱鞘内注射が保存療法の主流である。

⇒有効率は70~80%で、糖尿病患者ではやや効きが悪い。ステロイドの副作用で血糖値が上昇するため、糖尿病患者への注射は慎重に行う。

⇒薬剤の量・注射回数が多いと、腱の皮下断裂をきたした症例報告もあり、注意が必要である。

⇒注射間隔・回数に制限を設け、それを超えても愁訴が継続する場合は手術適応とする。

 

 

②手術療法

 

・滑走障害を起こしている腱鞘自体をメス・剪刀で切開する。

⇒ステロイド腱鞘内注射から1ヶ月以内の手術は深部感染率が上がるため、注意が必要である。

 

 

 

【ドケルバン腱鞘炎】

 

母指(親指)を広げると手首(手関節)の母指側の部分に腱が張って皮下に2本の線が浮かび上がります。ドケルバン病はその母指側の線である短母指伸筋腱と長母指外転筋が手首の背側にある手背第一コンパートメントを通るところに生じる腱鞘炎です。

 

(公益社団法人 日本整形外科学会 ドケルバン病(狭窄性腱鞘炎)より引用 「ドケルバン病(狭窄性腱鞘炎)」|日本整形外科学会 症状・病気をしらべる (joa.or.jp))

 

 

疫学

 

・ばね指と同じく、妊娠時や産後、更年期の女性に多い。

⇒特に授乳期の女性は、繰り返し乳児を抱き上げる動作によって症状が誘発される。

 

・スポーツマンや指をよく使う人にも見られる。

 

 

病態

 

・母指を伸ばす腱(短母指伸筋腱)と、母指を広げる腱(長母指外転筋腱)の2本が、手関節橈側(母指側)の腱鞘部分で炎症を起こす。

⇒腫れ、痛み、動作不良を引き起こす。

 

 

診断

 

・手関節橈側(第1背側コンパートメント)に圧痛、母指運動時に鋭い疼痛を認める。

 

・誘発テストとしてフィンケルシュタインテストが有用である。

⇒疼痛が強い例では母指MP関節を他動屈曲させるだけで強い痛みが誘発される。


〈誘発テスト〉

●フィンケルシュタインテスト

母指内転位で手関節を他動尺屈させる。

 

●フィンケルシュタインテスト変法

母指を握りこんで(内転位)手関節を自動尺屈させる。

 

●岩原・野末のサイン

手関節を最大掌屈して母指を最大外転させる。

 

 

●治療

 

①保存療法

 

・ばね指と同じく、局所の安静で刺激を少なくする。

⇒着脱可能な装具療法は、装着することで患者本人が疼痛誘発動作を避けるよう留意する効果が期待できる。

 

・非ステロイド性鎮痛消炎剤(NSAIDs:Non-Steroidal Anti-Inflammatory Drugs)

⇒湿布、飲み薬など。

 

・ステロイド腱鞘内注射

⇒装具や投薬で症状が軽快しない場合に選択となる。

⇒注射箇所である手関節橈側は手掌部と異なり、皮膚・皮下組織が薄く、皮膚の色素脱失・委縮などの合併症を起こしやすいため、皮下への漏出を避けるよう注意が必要である。

 

 

②手術療法

 

・約1割の患者は保存療法では症状軽快に至らず、手術適応となる。

⇒ばね指と同じく、腱鞘を切開し、腱を開放する。

⇒手術適応になる件数は、ばね指よりかなり少ない

 

 

 

【ヘバーデン結節】

 

指の第1関節(DIP関節)が変形し曲がってしまう原因不明の疾患です。第1関節の背側の中央の伸筋腱付着部を挟んで2つのコブ(結節)ができるのが特徴です。この疾患の報告者へバーデンの名にちなんでヘバーデン結節と呼ばれています。

 

(公益社団法人 日本整形外科学会 へバーデン結節 より引用 「へバーデン結節」|日本整形外科学会 症状・病気をしらべる (joa.or.jp)

 

他にも手指の変形性関節症(Hand OA:HOA)として…

・ブシャール結節⇒第2関節(PIP関節)に起こる変形

・母指CM関節症

などが挙げられる。

 

一般的には骨増殖性の変化を示すことが多く、手指の変形を伴うことが多い。

 

 

●疫学

 

・55歳以上を対象としたRotterdam study(ロッテルダム研究:オランダ)では、女性67%、男性55%にX線学的なHOAを認めたと報告されている。

 

・60歳以上を対象としたBeijing study(北京研究:中国) では、女性47%、男性44.5%にX線学的なHOAを認めたと報告されている。

 

・平均65.6歳の日本の研究では、女性92.3%、男性89.9%にX線学的なHOAを認めたと報告されている。

⇒諸外国より圧倒的に高値であり、人種の影響が示唆されている。

 

・一卵性双生児と二卵性双生児のデータを用いた大規模な変形性関節症(以下OA)の調査において、膝OAの遺伝的な影響は約40%であるのに対して、HOAの遺伝的な影響は約60%と報告した。

 

 

●病態

 

・手指の第1関節(DIP関節)に発生する原因不明の変形性関節症である。

⇒第2関節(PIP関節)に発生するものはブシャール結節という。

 

・示指~小指にかけて発赤、腫脹、変形、痛みによる動作不良、手を強く握れない。

⇒母指にもみられる場合もあるが頻度は少ない。

⇒炎症症状は数カ月で消退することが多い。

 

・変形箇所に水ぶくれ(粘液嚢腫:ミューカスシスト)を認める場合もある。


図 ミューカスシスト

 

・発症のリスクファクターとして年齢、性別が女性、家族歴、高い骨密度、肥満、機械的ストレスなどが報告されている。

⇒一般的に40歳代以降の女性に多くみられ、50歳以上で発症率が急激に増加する。

 

 

●診断

 

・X線で関節裂隙の狭小化、骨棘形成、骨硬化像を認める。


図 54歳女性 X線小指正面像(左)/側面像(右)

 

・関節に炎症を起こしうる他の疾患との鑑別が非常に重要である。

⇒関節リウマチ(RA)、乾癬性関節炎(PsA)、結晶性関節炎、ウイルス性関節炎など。

⇒X線撮影、採血、尿検査などで鑑別する。

 

 

●治療

 

①保存療法

 

・装具および運動療法

 

・NSAIDs外用薬

⇒経口NSAIDsと同様に鎮痛作用を示す可能性があり、安全面で第一選択となる。

 

・NSAIDs内服薬

⇒経口NSAIDsは痛みと機能を改善するが、特に胃腸、心臓血管、腎臓へ副作用があることを考慮する必要がある。

 

・アセトアミノフェン(商品名:カロナール)

⇒解熱、鎮痛作用がある比較的軽めな薬となるが、抗炎症作用はない。

⇒HOAへの使用において、プラセボとの有意差はなかったと報告されている。

 

・ステロイド関節内注射

⇒DIP関節、PIP関節内に注射を行い、有意に運動時痛が改善した報告がある。

 

・その他サプリメント(グルコサミン・コンドロイチンなど)

⇒ヨーロッパ圏では基準を満たしたうえで薬剤として使用され、臨床研究が行われている。

⇒エビデンスに乏しく、有効性はあまり証明されていない。

 

 

②手術療法

 

・保存療法で疼痛改善しない、変形が強く日常生活に支障をきたす場合に手術を検討すべきである。

⇒専門家の意見であり、明確なエビデンスはない。(エビデンス自体を得るのが難しい?)

 

・粘液嚢腫(ミューカスシスト)によって菲薄化した皮膚からの感染や疼痛がある場合は処置を要する。

⇒穿刺吸引、再発例に対しては手術が必要となる。

 

・変形、関節不安定症、疼痛が強い場合、また醜形に対しては関節固定術を行う。


図 headless compression screwによる関節固定術

 

 

 

●さいごに

 

今回は“女性によくみる手疾患”から「ばね指」「ドケルバン腱鞘炎」「ヘバーデン結節」について学び、まとめました。

この勉強会テーマを選んだ理由は父がばね指、母がへバーデン結節で日頃から困っているのを見ていたからです。もちろん私は放射線技師であり治療する立場ではないのですが、今回の知識が父母の、並びにレントゲンを通して患者様の助けになれば良いなと思います。

 

当院では、このような勉強会を定期的に実施しております。今後も患者様のために研鑽していきます。今後の投稿も楽しみにしていてください。