こんにちは、放射線技師の武田です。
11/5に行われた院内勉強会「下肢スポーツ障害の診かた」に参加しました。
今回はその中の“足関節インピンジメント症候群”についてまとめたいと思います。
●足関節インピンジメント症候群とは?
※インピンジメントとは?
インピンジメント(impingement)=衝突
関節を動かす際に、周囲の骨や軟部組織が衝突・挟み込まれることにより、組織の損傷が起こって痛みが生じ、うまく動かせない状態のことです。
足関節インピンジメント症候群は底背屈の反復によるオーバーユースや、捻挫など外傷を契機に発症するアスリートに多い疾患です。
今回は発生部位(前・後)と衝突を起こす原因組織(骨・軟部組織)を考え、まとめていきたいと思います。
●足関節前方インピンジメント症候群(AAIS)
【骨性インピンジメント】
脛骨前縁や距骨背側に骨棘を認め、足関節前方の痛みを有するが大きな外傷歴はなく、スポーツを継続しているアスリートによくみられます。特にサッカー選手に多かったことから
athlete’s ankleやfootballer’s ankleとも呼ばれています。
図1 単純X線 足関節側面像
脛骨下端前縁および距骨滑車前縁に骨棘を認める。
〈骨棘の原因〉
・スポーツ動作などによる背屈強制の反復
・捻挫による衝突
・サッカーのキック動作で生じる内果前縁へのボールの衝突
・慢性足関節不安定症
【軟部組織性インピンジメント】
前外側インピンジメントと前内側インピンジメントに分けられます。
何らかの原因で肥厚した軟部組織が関節に挟み込まれることで足関節前方に痛み・腫脹などの症状を引き起こします。
図2 慢性足関節外側部痛の発生機序
骨性インピンジメントでは原因となる受傷機転が明らかでない場合も多いのに対し、軟部組織性インピンジメントでは外傷との関連が指摘されています。
ある報告では、捻挫で受診した2000例中43例(2%)に前外側インピンジメントを認めており、捻挫等が多いアスリートにおいて重要な疾患であり適切な診断が求められます。
〈インピンジメントを起こす軟部組織〉
・滑膜組織
・捻挫や靭帯損傷後の瘢痕組織
・滑膜ひだ
図3 滑膜によるインピンジメント
滑膜の増生を認め、関節裂隙内まで及んでいる。
図4 滑膜ひだによるインピンジメント
関節から前方に延びる索状組織を認める。
【症状・診断】
・運動時、運動後の足関節前方の痛みがあり、腫脹を伴うこともあります。
・足関節前方に圧痛を認め、背屈強制やしゃがみ込み動作で疼痛が誘発されます。
・前外側の軟部組織性インピンジメントの診断にはMolloy-Bendall test が有用です。
図5 Molloy-Bendall test
足関節前外側を母指で圧迫しながら背屈動作を行う。
⇒疼痛が誘発されればインピンジメント陽性である。
⇒母指圧迫のみで痛みが生じる場合は非特異的所見であるが、背屈動作で疼痛が増悪すれば陽性と判断する。
・CTでは骨棘をさらに詳細に描出することができ、術前計画に有用です。
図6 足関節前方インピンジメント症候群(骨性)3DCT像
脛骨下端前縁、内果前縁、距骨滑車内側前方に骨棘を認める。
・MRIでは軟部組織性インピンジメントに関与する組織を評価することができます。
図7 前外側インピンジメント MRI(T2WI)
断裂し肥厚した前下脛腓靭帯の断片を認める。
●足関節後方インピンジメント症候群(PAIS)
足関節後方の組織が底屈により挟み込まれることで痛みを生じる疾患です。
繰り返しの負荷や外傷が契機となり発症するため…
・バレエダンサーのポアント肢位(つま先立ち)
・サッカー選手のインステップキック
・その他ジャンプやダッシュを繰り返す動作 など
足関節最大底屈を繰り返すアスリートに多くみられます。
【骨性インピンジメント】
・三角骨障害
・大きな距骨後突起外側結節(Stieda結節)
※三角骨とは?
距骨後方に存在する余分な骨(過剰骨)であり、成人の約7%に存在すると言われています。通常は7~13歳頃に二次骨化中心として出現し、1年以内に距骨と癒合します。
何らかの原因で癒合しない場合において、三角骨として残存すると考えられています。
三角骨が残存している場合でも通常は痛みを伴いませんが、繰り返しの負荷や外傷が契機となり、インピンジメントを引き起こします。
図8 単純X線 足関節側面像 三角骨
(左)距骨後方に三角骨を認める。
(右)底屈で後果と踵骨に挟み込まれる様子が確認できる。
【軟部組織性インピンジメント】
・長母趾屈筋健の炎症による肥厚
・足関節後方の靭帯
・関節包組織
上記の軟部組織が挟み込まれることで足関節後方に痛み・腫脹などの症状を引き起こします。
【症状・診断】
・足関節後方の痛みと、痛みによる底屈制限を認め、底屈強制にて疼痛が誘発されます。
・長母趾屈筋健の炎症を併発している場合、抵抗下の母趾底屈により後足部の痛みが誘発されます。
・骨性インピンジメントの原因となる三角骨、Stieda結節は足関節側面像で確認でき、CTでは骨片の形状をより詳細に描出することができます。
図9 足関節後方インピンジメント症候群(骨性)CT像
(左)骨片と距骨後方の接触面の向きなどを評価できる。
(右)3Dでは三角骨自体の形態をより詳細に描写できる。
・MRIにて三角骨の骨髄浮腫像や周囲の水腫を認めます。
図10 足関節後方インピンジメント症候群(骨性)MRI
三角骨、距骨後方の接触部の骨髄浮腫像(矢印)、周囲の水腫(矢頭)を認める。
●足関節インピンジメント症候群の治療
①保存療法⇒第一選択となる
・運動制限
・非ステロイド性抗炎症薬(NSAIDs)
・アイシングやテーピング
・ステロイド注射
⇒前外側インピンジメントについては、90%の症例で症状が改善し、2年経過後も46%が疼痛なしを維持できるなど一定の効果が報告されています。
・足部の理学療法
⇒筋力トレーニング、バランストレーニング、着地・踏み込み動作の修正など…
②手術療法⇒保存療法が無効である場合に選択される
・鏡視下骨棘切除術
⇒低侵襲で競技復帰に有利、良好な成績が報告されています。
図11 足関節インピンジメント症候群の手術療法
前方インピンジメントに対して前内側、前外側2穿刺孔で、後方インピンジメントに対して後内側、後外側2穿刺孔で鏡視下骨棘(滑膜)切除術を行う。
●さいごに
今回は足関節インピンジメント症候群について学び、まとめていきました。
足関節の症状で来院される方はとても多く、足関節のレントゲン撮影を行わない日は無いと言っても過言ではありません。
今回学んだ知識を撮影技術に落とし込み、より患者様の治療に貢献できるよう努めたいと思います。
当院では、このような勉強会を定期的に実施しております。今後も患者様のために研鑽していきます。今後の投稿も楽しみにしていてください。