こんにちは、放射線技師の武田です。
8/6に行われた院内勉強会「小児の骨折の特徴」に参加しました。
今回はその中でも“小児の骨の特徴”、“小児期特有の骨折型”、“小児骨折の後遺症”についてまとめたいと思います。
●小児の骨の特徴 大人の骨とどう違う?
①低い骨密度(=骨が弱い)
小児では骨密度が低く、6歳時では大人と比べておよそ半分の値しかありません。
幼児の頃には性差はなく、成長とともに骨密度は増加します。
・男子⇒13歳頃から骨密度は急上昇し、20歳頃に緩やかとなります。
・女子⇒初経を境に骨密度は急上昇し、15歳頃に緩やかとなります。
一方で柔らかく弾力性があるため、骨折したとしても「バキッ」とは折れず「ミシリ」としなり折れる不全骨折となる場合が多いです。
※不全骨折とは?
…骨が完全に断裂しておらず、部分的につながっている骨折のことです。いわゆる「骨にヒビが入った」状態ですが、医学的には骨折に分類されます。
見た目だけでは骨折と判断がつきにくく、捻挫や打撲と間違えられることもあります。
その場合はケガをしていない反対の部位をX線撮影し、比較することが推奨されています。
②厚い骨膜
※骨膜とは?
…骨の表面を覆っている強くてしなやかな薄い膜で、血管と神経が分布しています。
骨と筋肉などの周囲の組織との結合の仲立ちをするほか、骨へ栄養を供給し、骨が損傷した際は修復・形成する働きがあります。
小児の骨は大人と比べて厚い骨膜に覆われています。骨膜は強くしなやかで破断しにくいため、折れた骨が離れることを防いで不全骨折となることが多いです。
また、幼児~小児の骨膜は骨を修復・形成する働きが旺盛なため骨折しても治癒が早く、多少曲がったままでも治癒の過程で元に戻ることが多いです。
X線撮影 手関節正面像
時間経過(左⇒右)でまっすぐに戻っている。
成長期の骨には、骨の端に成長軟骨と呼ばれる成長をつかさどる軟骨層があります。
骨はX線撮影で白い影として写りますが、軟骨部分は写らず黒い線状に見えます。
この部分が細い隙間として見え、成長軟骨板(骨端線、成長線)と呼ばれます。
X線撮影 足関節正面(左:10歳 右:15歳)
左:10歳 骨の中に黒い線(=成長軟骨板)を認める。
右:15歳 成長終了間際のため成長軟骨板は消失している。
成長軟骨板は力学的に脆弱であり、小児骨折の約2割が成長軟骨板付近で生じると言われています。
この部分での変形治癒は自家矯正されやすい一方で、成長軟骨板が損傷し骨の成長作用が失われてしまうと成長障害の原因となってしまうため、他の部位の骨折より慎重な治療選択と長期経過観察が必要です。
●小児特有の骨折型
①膨隆骨折
X線撮影 手関節正面像
(矢印)に骨の隆起を認める。骨の破断は認めない。
長軸方向の比較的小さな外力が手足等の細長い骨に加わることで発生する不全骨折のひとつで、骨の一部が押しつぶされて「ポコッ」と膨らんで変形します。
未就学児が転倒して手をついた際に手関節付近(橈骨遠位骨幹端)に発生する例が多いです。
②若木骨折
X線撮影 前腕正面像
橈骨・尺骨の骨折を認める。
伸展側は破断しているが、屈曲側は皮質骨の連続性を残している。
長軸方向の比較的大きな外力が手足等の細長い骨に加わり、折れ曲がるようにして発生する不全骨折のひとつで、伸展側は破断しているが、屈曲側は骨がついた状態となっています。若い枝を折り曲げた様に似ていることから若木骨折といいます。
未就学児が転倒して手をついた際に前腕付近(橈尺骨骨幹部)に発生する例が多いです。
③急性塑性変形
X線撮影 前腕側面像
橈骨の屈曲変形を認める。骨折線は認めない。
上記の若木骨折と同様の機序で発生する骨折ですが、伸展側と屈曲側共に骨がついたままでX線上骨折線が現れず、自家矯正しにくいのが特徴です。
●小児骨折の後遺症
①変形治癒
言葉の通り、骨折後に骨が曲がった・ずれた状態で固まって治癒してしまうことです。
『小児の骨の特徴』で説明したように、小児期の骨は修復・形成する働きが旺盛なため、自家矯正され元に戻る場合が多いです。
しかし、年齢や骨折部位などによって自家矯正能に大きく差があるため「どのくらいまで自家矯正するのか」を把握し、治療を進めていくことが重要です。
〈自家矯正能に関わる要因〉
・年齢
低年齢であるほど自家矯正能が高く、成長終了間際には低くなります。
⇒「骨の伸びしろ」があるほど自家矯正能が高い
・骨折部位
自家矯正能は骨膜と成長軟骨板の働きに依存します。骨の中心部(骨幹部)では骨膜しか働かないのに対して、骨の端(骨幹端部)ではこの2つが同時に働きます。
⇒自家矯正能は…骨の端(骨幹端部)>骨の中心部(骨幹部)
手足等の細長い骨において成長軟骨板は骨の両端にあり、これらは働く比率(骨の成長比率)が異なります。
よって、同一骨内でも「どちらの骨の端が骨折するか」で自家矯正能が異なります。
例)上腕骨の成長比率 肩側:80% 肘側:20%
肩側である上腕骨近位は成長能が高いため自家矯正能も高い
肘側である上腕骨遠位は成長能が低いため自家矯正能も低い
上腕骨近位部の骨折は許容される変形が大きいが、遠位部では許容される変形が小さいため、より慎重な治療選択が求められます。
・変形方向
骨折した際に「どの方向に変形して折れたのか」によって自家矯正能が異なります。
自家矯正能の高さは…
矢状断面(屈曲・伸展変形)>冠状断面(内反・外反変形)>水平断面(内旋・外旋変形)
回旋変形に対する自家矯正能は非常に低いため注意が必要です。
②成長障害
骨折等によって成長軟骨板が損傷し、骨の成長に何らかの異常が生じることです。
関節の変形や痛み、変形を補うため他の関節も変形してしまう、などの障害も発生します。
全成長軟骨板損傷のうち、成長障害をきたすものは1~10%程度と言われています。
成長障害は受傷後2~6カ月以内に判断できることが多いですが、受傷から1年経たないと明確には判断できない場合もあるため、治療終了後も経過観察が重要です。
〈主な成長障害〉
・過成長
一過性の異常成長であり、骨折の治癒に伴う血流の増加によって成長軟骨板での成長が促進されることによるものです。
通常は受傷後1~2年の間に生じることが多く、大腿骨では8~10mm程度、下腿骨では5mm前後過成長します。
・低成長(成長停止)
Salter-Harris分類(左から1.2.3.4.5)
成長軟骨板損傷のうち、Salter-Harris分類の3~5型(成長軟骨板を跨ぐように損傷がある)で生じやすいとされます。
X線画像にて骨端線を跨ぐような骨硬化像、骨端線消失(骨性架橋)を認めた場合には、骨端線早期閉鎖が疑われます。
骨性架橋の範囲が骨端線の面積の10%未満であれば問題となることは少ないですが、25%を超える場合には問題となる骨成長・変形が生じる可能性があります。
過成長とは異なり、一過性のものではなく、成長終了まで悪化します。
左:X線撮影 手関節正面像 /右:MRI 手関節
橈骨遠位の骨端線を跨ぐような骨硬化像(骨性架橋)を認める。
橈骨の成長が止まり、尺骨のみが成長して長さに差が出ている。
●さいごに
今回は “小児の骨の特徴”、“小児期特有の骨折型”、“小児骨折の後遺症”についてまとめていきました。
気になった内容は全部調べてまとめたため、文章がとても多くなってしまいました。
小児骨折に関して勉強し、日々の業務であるレントゲン撮影の重要さをあらためて深く理解することができました。
当院では、このような勉強会を定期的に実施しております。今後も患者様のために研鑽していきます。今後の投稿も楽しみにしていてください。
ここまで読んでいただきありがとうございました。